ところが現代のニューヨーク・メトロは“スパイ君”になるかもしれないという。1月8日付米紙ワシントン・ポストの1面に、こんな見出しが躍った。
《中国製の地下鉄車両はわれわれをスパイできる? 多くの専門家はいう。イエスだ》
米国では旅客車両を造るメーカーはもう存在しないから、中国など価格競争力のある海外メーカーに頼るしかない。
ワシントン・ポストが報じたのは鉄道車両を巡る入札についてだ。地下鉄を運行する首都圏交通局(WMATA)は2024年に最新鋭車両を導入する。受注が有力視されているのは、中国国有の鉄道車両メーカー・中国中車(CRRC)だった。
CRRCは中国の軍事産業との関係が取り沙汰され、国策で地球半周以上の距離を整備した高速鉄道の需要を背景に、世界最大手に成長。欧州の一部の国やボストン、シカゴなどで相次いで地下鉄車両の受注に成功していた。
中国製の最新鉄道車両は、ただの「ハコ」ではなく、運行の効率化や安全対策のため多くのセンサーを搭載し、通信網を介してデータをやり取りするためサイバー攻撃のリスクも高くなる。つまり中国製内部センサーを熟知する中国からのサイバー攻撃にはひとたまりもない。
「CRRCの米国拠点は『当社は米国で競争している他のメーカーと何ら変わらない』と反論するが、WMATAはサイバー面の安全要件を見直し、入札を4月まで延期しました」(在米日本人ジャーナリスト)
米国の権力が集まる首都ワシントンの地下鉄で、ホワイトハウス当局者の会話や行動が中国に監視されたら…。こんなトム・クルーズ主演の人気映画シリーズ『ミッション:インポッシブル』の一場面のようなシーンが現実に起こるかもしれない。