「掛布が降板させられたのは、あの金銭トラブルがやはり響いているのではないか」というのが、球界内の定説になっている。98年に2億4000万円の豪邸を建設。地上4階、地下1階、車を5台収容できるガレージ。だが、固定資産税や住民税の滞納があったと、昨年11月に豊中市が土地、建物を差し押さえ。その後、支払いに応じたため、12月に差し押さえは解除されたという。
掛布氏は手違いを強調したが、「お好み焼き店など飲食業に手を広げすぎ、借金は10億円に達するのでは」というのが、球界関係者の間では常識になっている。芸能界では10億単位の借金は珍しくなく、まとめて返して美談になることもあるが、少年たちの夢を売りにするプロ野球界はそうはいかない。借金問題は致命傷になる。
「もう借金は返済しました」。事あるごとにこう強調しているのが江川氏だ。不動産投機などで失敗。過去に事務所の倒産情報が流れたのは、一度や二度ではない。それだけに、江川氏の言葉を素直に受け取る野球人はほとんどいない。
巨人・長嶋監督が勇退、原ヘッドコーチに禅譲した2001年の秋。江川氏もポスト長嶋の有力候補に挙がっていた。「視聴率が取れる男」として日本テレビが高く評価していたからだ。社長、会長を務め、現在も取締役会議議長として君臨する氏家斉一郎氏が江川氏の最大の擁護者だといわれる。しかし、江川氏は現役時代に可愛がった後輩の原に敗れ、悲願の巨人監督の座に就けなかった。「江川には借金があるから」。氏家氏が一言、そう漏らしたという。いくら本人が否定しても億単位ともいわれる借金説がつきまとう江川氏には、巨人監督というポストは、あと一歩まで行っても届かない永遠の夢なのか。あの球界を激震させた、空白の一日を突いた巨人と電撃契約。
球界分裂を恐れた金子鋭コミッショナー(当時)の強い要望で、ドラフトで指名した阪神・江川卓と巨人・小林繁との交換トレードで最終決着するまで、世間を騒がせ続けたいわゆる江川事件の裏には、「将来の巨人・江川監督」という一札があったという。しかし、当時の関係者の多くは亡くなり、密約説も風化している。
「巨人監督、阪神監督を夢見た江川と掛布は、お金欲しさに地道な充電生活をしなかった。野球評論家というよりも、派手なタレント活動を繰り広げていたのだから、自業自得だろう」
こう言い切る球界OBが圧倒的だ。元祖・怪物投手と呼ばれた江川の才能に惚れ込んでいた長嶋監督もこう明言している。「監督をやりたいのならば、一度投手コーチを経験するなりして、それなりの準備をしなければダメだ。いきなり監督をやって成功するほど甘くはない」
実際、ポスト長嶋として原ヘッドコーチVS江川氏の一騎打ち状態になったときに、長嶋監督は原新監督誕生を渡辺恒雄オーナー(現球団会長)に強く進言している。それでも、勇退後に専務取締役・巨人軍終身名誉監督に就任した長嶋氏は江川氏を見捨てなかった。