長野での聖火リレーは混乱をきわめた。10人目のタレント萩本欽一さんが長野駅前を走っている際、沿道から何かが投げ込まれた。長野県警によると、リレーの周辺で数件の小競り合いがあり、投げ込まれたのは発炎筒のようなもの2本。当局は投げた男の身柄を拘束した。
さらに午前9時すぎ、卓球の福原愛選手が走っている際、沿道から男がコースに飛び出し、取り押さえられた。
数メートル先に飛び出した男に、愛ちゃんはビックリした表情で足が止まった。男はチベットの旗を持っていた。
長野市内約18.7kmを警察当局が3000人超で監視する完全防護態勢のなか、80人がリレーする姿は異様だった。星野氏以外の79人のランナーの走行区間は事前に公表されず、式典会場では一般客の立ち入りが禁止されるなど超厳戒態勢を敷かれた。聖火ランナーとしては、タレントの萩本欽一さんや五輪メダリストの有森裕子さんのほか、北京五輪代表組では水泳の北島康介選手や女子マラソンの野口みずき選手ら著名人や公募ランナーが走った。
しかし、善光寺の辞退で急きょ出発地点となった県勤労福祉センター跡地と中間地点のエムウエーブでは、一般客の出入りを禁じ、当初予定されていた一部イベントは中止。スタート地点には大勢の中国人留学生が集結して歌を歌ったり「五輪成功」などと歓声を上げた。逆に中国のチベット政策に抗議する集団も出現し、トラブルを警戒する警官隊には緊張感が走った。平和の祭典ムードどころか終始物々しい雰囲気だった。
北京五輪組織委員会が派遣した約100人の中国人スタッフが来日。公式ユニホームの青いジャージーを着た2人が、リレーで聖火が消えた場合に備えるフレームアテンダントの役目で伴走した。中国側はこの“聖火防衛隊”を警察学校の学生と説明している。
日本オリンピック委員会(JOC)の遅塚研一専務理事は「聖火の取り扱いに習熟した人間が必要なので青色のジャージーを着た2人が伴走する。パリなどで見られた警備のような“聖火防衛隊”の役目ではない」と話したが、「間違いなく人民解放軍の軍人。特殊部隊に所属している精鋭のようだ」(中国事情通)。星野氏をはじめとするランナーを機動隊ががっちりガードし、それに挟まれるかたちで青いジャージーの人民解放軍兵士がにらむ緊迫のランとなった。
一方、長野県警は石井隆之本部長が陣頭指揮を執り、警視庁や他県警などの応援を得て、沿道には数メートル間隔で警察官を配置。不測の事態に備えた。
残念な側面から大注目された長野のリレーも終わり、聖火はソウルに向かう。