好敵手を得て、仲間うちで競い合う快感を覚えたら、もう芸事は止められない。かくて碁会所、句会、民謡酒場は満員御礼だ。碁は「笠碁」という落語を、句会は「浜藻歌仙帖」(別所真紀子著)というミステリーをその成果と成すも、民謡酒場はいかに。
登場するのは民謡選手権全国大会優勝の猛者たち。加うるに寄席の高座に上がる音曲師や、新内のお師匠さん。だからレベルは日本アルプスよりも高い。ご主人栄翠氏は、半音ごとに音程の違う尺八10本を構え、三味線と太棹の二挺を携えた師匠と、撥捌(ばちさば)きの稽古に余念のない太鼓のお姉さんが脇を固める。女将さんと息子さんは、板場をこなしながらの出番。ご家族全員、料理の腕と民謡の喉(のど)に覚えありなのだ。
この「くつろいだ気分で自由に集団的即興演奏や競演をする形態、またはその集まり」(大辞林)がジャムセッション。NYのジャズクラブ、紫煙たなびくヴィレッジヴァンガードで、いきなりロン・カーター(ベース奏者)が物凄(すご)いフレーズを弾きだした瞬間を忘れない。浅草仲見世と築地市場しか知らない外国人観光客をここに連れてきたいなあ。そうすれば、NYの日本人(わたし)の総毛立つ一夜と、まったく同じ体験をさせてあげることができるのにと、生芋茎(なまずいき)と臍(ほぞ)をかむ。
寄せ鍋は、いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)の奥様方が奉行を勤め、牡蠣(かき)、蛤(はまぐり)を小皿によそい、唄い、合いの手を入れる。
<ハァ、チンカン、チンカン>
宴たけなわではございますが遠方につき御免くださりませ。
<ハァ、ヨシトニー、ヨシトニー>
予算5000円
東京都墨田区向島4-2-4