今回ご紹介するのは、現在20万人以上もの人口が住む青森県の都市部、八戸市で発生した「女の事件」をご紹介したい。
1987年(昭和62年)11月5日、青森県警八戸署は同市に住む73歳の老女を詐欺の疑いで逮捕した。調べによると、この老女は1982年から逮捕される5年間の間に、近所の主婦を中心に8000万円余りをだまし取った疑いが持たれているという。
この老婆は身よりもない無職であり、一見どこにでもいる老婆であったという。ではいったい、何故老い先短いこの老女が8000万円もの大金を複数人からだまし取れたのであろうか。
その理由は、戦後の闇市であったという。
青森県青森市は、第二次世界大戦の影響で市内の建物のほとんどが焼けてしまったという。そんな青森市を立て直したのが闇市であった。元来、青森県は農業が盛んで、闇市の中心は戦前まで青果店などの個人商店を営んでいた生粋の商売人が切り盛りしていたという。経済が回った結果、青森県内は復興が早く、早期の立て直しが可能だったとされる。
老女が利用したのはこの闇市だった。彼女は近所の金持ちの主婦を集め、「私には闇市で稼いだ隠し預金31億円がある」「あくまで隠し預金なので引き落とすことができない。しばらくの間、生活費を貸してほしい」と懇願したという。
戦後闇市の旺盛をわずかながら知っている主婦や個人事業主たちは、老女の話を信じ切ってしまい計8000万円を融資。しかし、この老女にはもちろん隠し財産など存在せず、金を返す充てなど一切なく、青森県内から逃亡しよう目論んでいたという。
戦争から40年以上が経過した昭和62年。一部地域ではまだまだ戦争の影は色濃く残っていたのである。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)