さて、薬物に関する過去のデータを見ると、高度経済成長期を終えた1970年代から女性の覚せい剤使用による検挙率が爆発的に上がったという記録があるという。
この背景には、覚せい剤が「ダイエットに効果的」「胃痛や肩こりにきく」といった文句で密売されていたことがあったという。裏社会の人間だけではなく、一般家庭にも薬物の脅威が入り込んでいたことを証明している。
そんな中、1978年にごく普通の主婦が覚せい剤を大量に密売したとして逮捕される事件があった。
当時の記事などによると、逮捕されたのは茨城県某市に住む34歳の主婦。女は同じく茨城県内に住む男と協力し、東京の暴力団から大量の覚せい剤を購入。茨城県内の暴力団員や近所の中毒者などに高値で売りさばいていたという。
主婦は覚せい剤を密売した動機について、「夫の収入が低く、子供3人を食べさせていくため、覚せい剤の密売に手を染めてしまった。悪いことであるのは自覚していたが、やめられなくなってしまった」と供述し、貧困に耐えかねて覚せい剤の密売に加担したという。
しかし、警察の調べで、主婦が1977年から1978年までに密売で1200万円(現在の金額で2000万円近く)の仲介料を手にしていたことが分かり、「子供を食べさせていく」という供述に嘘があることが判明した。
その後、主婦は覚せい剤取締法違反の罪で女子刑務所に入ったとされている。
ごく普通の町で発生した、ごく普通の主婦による覚せい剤密売事件。このニュースは当時、茨城県のある地域に大きな衝撃を与えたという。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)