田代は逮捕の直前まで、薬物依存者の社会復帰を支援する団体ダルク(DARC)の職員として働いていたほか、薬物の怖さを訴えるテレビ番組に出演していたことから、その逮捕は衝撃的だった。
さて、覚せい剤は男女問わず脳細胞を破壊する危険なものだが、今から40年ほど前の1980年、和歌山県とある閑静な町で覚せい剤を使用していた夫婦による衝撃の事件が発生した。
1980年5月末、和歌山県の路上で車を運転していた女性が、路上で角材を持った夫婦に襲われた。車外に引きずり出されたあげく、暴行されるという事件があった。
犯人の夫婦は、見た目が共に20代後半程度。奇声を上げながら路上で大暴れしていたという。その様子は、誰がどう見ても薬物によって発狂してしまった人間そのものであったという。
発狂夫婦が再び現れたのは女性襲撃からしばらくしてからだった。彼らは、今度は小学校に現れ、遠足へ出かけようとバスに乗り込んでいた小学5年生の目の前に現れた。「なんだ君たちは!」と怒る引率教師の制止も聞かず、発狂夫婦は角材を振り回しながら小学生の乗るバスを襲い始めた。
特に女性側の錯乱ぶりはひどく、上半身裸になり角材を振り回し、日本語とは思えない大声を出して暴れていたという。
10歳を過ぎたばかりの小学生にとってその光景はあまりにショッキングだったことは想像に難くない。中には顔を真っ青にしながら小刻みに震える子供も少なくなかったという。
夫婦はしばらくして駆け付けた警察に逮捕されたのだが、やはり錯乱の原因は覚せい剤だった。彼らは日常的に薬物を吸引し、この日、群馬県から車に乗って和歌山までやってきたという。夫婦は覚醒剤取締法違反と暴行の容疑で、現行犯だった。
閑静な町を恐怖に陥れた発狂夫婦は、わずか1時間で逮捕された。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)