午前10時半ごろ、ひとりで留守をしていた当時78歳のA子さん(仮名)宅に鉄パイプを持った女が押し入り、A子さんを数発殴った上、持参したロープでグルグル巻きにし、動けなくした上で現金5万円(現在の物価に換算すると8万円程度)の入った財布を奪い逃走するという事件が発生した。
110番通報を受けた警察が調べたところ、犯人はA子さんの家の近くに住むB子(仮名)と分かりB子を逮捕したのだが、警察は捕まえたB子の年齢を聞いて驚いたという。B子は当時60歳で、鉄パイプを手に強盗をするようには見えないほど弱っていたのだ。
B子がA子さん宅に押し入った時点で、B子が手荒に金銭を奪うつもりはなかったようだが、A子さんはB子をバカにした態度で400円を渡したため、B子は逆上。いざというときにと隠し持っていた鉄パイプでA子さんの頭を殴りつけ口に粘着テープを張り、ロープで縛り動けなくした上で財布を奪っていったという。
しかし、所詮は素人の犯行。ロープはすぐにほどけ、A子さんは脱出。頭から血を流しながらも警察に電話。犯人は近くに住むB子だと伝え、確保となった。
逮捕時には既に体力が切れていたのか、全く抵抗する様子なく捕まり、「老人が老人を襲う」という珍しい強盗事件は無事解決となった。
なお、犯行の動機についてB子は自身の借金が原因であると警察に語ったという。証言によるとB子は独身で職もなく金融機関からおよそ10万円(現在の価値で15万円ほど)を借金していたという。
年末までに返す約束だったが、どうしても工面ができず、近くに住んでいた自分より力のない78歳のA子さんを襲うことを決意したという。
老人が老人を介護する「老老介護」は今の社会問題だが、「老老強盗」は当時ケースがあまりなかった。十数年後に社会問題になる高齢者問題を予感させるような「女の事件」であった。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)