1983年11月10日の午後7時、フィリピン・マニラ空港から成田空港へ飛び立った航空機に一組の日本人カップルが搭乗していた。
男性は当時26歳の大学生、女性は当時23歳の女性で、彼らは成田空港に着いた途端、待機していた税関職員に捕まった。容疑は大麻の密輸であった。
彼らはフィリピンで手に入れた大麻300グラムを下着部分に入れたり、靴の土踏まずの部分に入れたりと、あらゆる方法を使い大麻を仕込んだ。特に女性側は念入りで、下着の中に大量の大麻の袋をパンパンになるまで詰め込んでいたという。
しかし、税関職員が驚いたのは大麻の量よりも彼女の職業だった。
なんと、彼女は日本の某航空会社で現役のキャビンアテンダントとして働いていた。成田空港の職員とも顔なじみの存在。彼女は休暇中で「大学生の恋人とフィリピンへ行く」と同僚に語っていたばかりだったのだ。
なぜ、彼女は現役CAでありながら大麻の密輸に手を染めたのか……。
供述によると、逮捕された男性は麻薬密輸の常習犯であり、より大量に密輸するために現役CAと協力しようと画策。その中で知り合ったのがこの現役CAだった。彼女は「税関は女性の下着までは確認しない」「成田空港の抜け道」など、現役でないと知らない情報を教えた。しかししょせんは素人仕事。計画は完璧だったが、密輸する度胸が足りず不自然な動きが目立ち、怪しんだ税関職員が声をかけたのだ。
休暇中とはいえ、現役のCAが麻薬密輸で逮捕されたのは本件が初めてであり、また「女性が下着に入れて密輸」という方法も本件が初だった。現在の麻薬捜査官の間では有名な事件のひとつとなっているようだ。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)