年の瀬も押し迫った12月某日、長野県のペンションで火災が発生した。空気が乾燥していたこともあり火はすぐにペンションを包み込み全焼した。
この火事により、ペンションに合宿のため泊まっていた京都市の少年野球チームの小学生2人が逃げきれずに焼死。現場ではペンションの中のロビーで、何者かが火をつけた痕跡が発見されたことから、警察はこの火事を失火ではなく「放火事件」として捜査することにした。
すると、捜査線上にひとりの女が浮かび上がってきた。それは野球チーム合宿の引率者で、自分の息子も野球チームに入っていた主婦のAであった。警察の調べに対し、逮捕されたAは容疑を認めたという。
彼女はなぜ自分の息子が所属している野球チームの宿泊先を放火しようとしたのだろうか。
Aは、近所では子供思いの主婦という評判があった一方、金に弱い一面があり野球チームの運営費をこっそり自分の懐に入れるなど日常的に着服を繰り返していたという。
そして年末。野球チームが長野県へキャンプ遠征することになり、会計係をAが買って出た。その際、チームに所属する親約20名からペンションの宿泊費各2万円を徴収。まとめてペンションの管理人に払う約束をしていたが、悪癖が抜けずに着服してしまい、ペンションには前金として5万円だけ払い領収書をねつ造。残りの35万円は全て自分の借金のあてにしてしまった。
もちろん、そんな大々的な着服が成功するはずもなく、同行していた他の主婦たちも次第にAを怪しみ始め、追い詰められたAはこのペンションを焼き払い、合宿そのものを中止させる暴挙に出たのだという。
結果、Aの思惑通り合宿は中止になったが、自分の息子のチームメイト2名が火事によって死んでしまったことに強く心を痛め、Aは自分の犯した過ちを天にざんげしたという。
あまりに身勝手で子供じみた犯行理由に、捜査に当たった警察官たち、そして近所の主婦たちは唖然としてしまったという。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)