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荻窪文学散歩

 杉並区には文学者が集まった。太宰治、中原中也、与謝野晶子、川端康成も若いころの一時期、高円寺に住んでいた。

 JR荻窪駅(杉並区)北口の天沼(あまぬま)に「教会通り」がある。井伏鱒二が天沼に住んでいたころ、近くの銭湯へ通ったという。現在の「教会通り」は道が舗装され、新築のおしゃれな建物が目立つ。

【読書の森公園】

 駅に戻り、南口を歩く。「読書の森公園」がある。隣接する「杉並区立中央図書館」と一体となるという全国でも珍しい公園。『荻窪風土記』(井伏鱒二)から引用された碑文や、絵本の形をした谷川俊太郎のモニュメントがある。ベンチや芝生で読書することもできる。園内には、池と東屋も造られている。井伏鱒二が天沼に住んでいたころの、杉並区を流れる善福寺川をイメージして設計された公園だ。

 中央図書館の正面には、荻窪体育館がある。ここはかつて、杉並区立公民館があった場所。現在、体育館前の一角に、記念碑が建てられている。

【大田黒公園】

 読書の森公園から歩くと、「大田黒公園」がある。ゆるやかな起伏を生かした回遊式日本庭園。秋は紅葉の名所として賑わう。大田黒元雄(1893-1979)の遺族から区へ寄贈され、1981年から公開されている。園内に屋敷跡がある。生前の大田黒元雄が愛用した蓄音機やピアノが展示されている。

 大田黒元雄は、旧制中学校卒業後、ロンドンに留学。帰国後、雑誌「音楽と文学」を創刊した。「音楽と文学」の「創刊の辞」に、以下のように記載されている。

 「我々は音楽の真髄を探究し『せん』明しようと努力するものである。我々は常に音楽と他の姉妹芸術との接触を図り、音楽を今日の孤立した状態から救い出して、更に有意義な多趣味な且つ一般的のものたらしめようと欲して居る。「音楽と文学」はかういう主張の下に発行される。そして仮令如何に小さくとも此の仕事を永続して行く決心を我々は持つて居る。-音楽と文学社同人-」

 「音楽と文学」は、同人が東京を離れなければならない事情などが重なり1919年に終刊した。大田黒元雄は、1933年に荻窪に移り住み、生涯にわたり、我が国の芸術振興に貢献した。

【角川庭園・幻戯山房〜すぎなみ詩歌館〜】

 大田黒公園の先には、「角川庭園・幻戯山房〜すぎなみ詩歌館〜」がある。角川書店(現・角川グループホールディングス)創設者で、俳人・国文学者の角川源義(げんよし、1917-1975)邸を復元した建物。2005年に遺族から区へ寄贈され、開放されている。

 角川源義は富山県に生まれた。1945年に角川書店を設立。1949年に角川文庫創刊、1952年に『昭和文学全集』を刊行。「出版界の風雲児」と呼ばれた。

 現在、角川文庫巻末に、角川源義の「角川文庫発刊に際して」が掲載されている。冒頭から2行を引用する。

 「第二次世界大戦の敗北は、軍事力の敗北であった以上に、私たち若い文化力の敗北であった。私たちの文化が戦争に対して如何に無力であり、単なるあだ花に過ぎなかったかを、私たちは身を以て体験し痛感した」

 角川源義は、1955年、天沼から荻窪に転居した。当時、角川邸周辺は、一面の田んぼだった。(竹内みちまろ)

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