「実際にここ数年、松井はケガの繰り返しだし、ヤンキースとの再契約はむずかしいだろうね」。松井と親交のある日本の球界関係者は、ニューヨークポストの報道に対し、あえて反論しない。05年オフに06年から09年までの4年間、総額5200万ドル(約51億4800万円)の超大型契約をした松井だが、故障禍のために結果を出せていない。契約切れの今季限りでヤンキースからクビを切られるのは避けられない情勢になっている。
ニューヨークポストは松井の高額な年俸がネックになり、他球団への入団も前途多難だと指摘している。日本球界関係者、OBたちは違った角度から反対、日本球界への復帰コールを送る。
「メジャー随一の名門球団ヤンキースの4番まで打った松井には、弱小のローカル球団でプレーしてほしくない。本人もあのピンストライプのユニホームに憧れてヤンキース入りしたわけだし、他のチームのユニホームは似合わない。ヤンキースが再契約しないのなら、日本球界に復帰すればいい。まだまだやれる。将来の監督という道も開けるのだから」と球界OB。
日本球界復帰となれば、どこに可能性があるのか。前出の松井と親しい球界関係者は「巨人だけはないでしょう」と真っ先に巨人を消去する。「その理由は簡単明瞭です。背番号55をルーキー・大田に与えた時点で巨人復帰はなくなりました。松井の側近中の側近が『松井が愛着を持っている55番をあっさりとルーキーにやるなんて信じられない。松井に対し、巨人に戻ってくるなと通告したのも同然の暴挙ですよ』と怒り狂いましたからね。松井本人も昨年オフのラジオ局の仕事で一緒になった原監督に痛烈なしっぺ返しをしている。原監督が外交辞令の意味も含めて『松井君には巨人に戻ってほしい』とラブコールを送ったが、笑って答えず。記者たちには『巨人にはもう僕の戻る場所はないだろう』と言い切っている。巨人が確信犯で55番を大田に与えたと思っているからだ」。
では、どの球団が本命になるのか。球界関係者は核心部分をこう言う。「メジャーでピンストライプのヤンキースなら、日本では縦じまのユニホームの阪神しかないでしょう。元来がアンチ巨人で熱狂的な阪神ファンですからね。嫌いな巨人に対し、入団拒否しなかったのは、松井に惚れ込んでいた長嶋監督の熱意にほだされたからで、今でも長嶋命ではあっても巨人には特別な感情はない」
阪神にとっては渡りに船の朗報だろう。真弓新監督を迎えた今季、スタートから出遅れて悪戦苦闘している。守りが一塁から三塁、打順も3番から5番に変わった2年目の新井が不振で、4番・金本が孤立しているからだ。来季、松井が加われば、金本との二枚看板が出来、新井もプレッシャーから解放され、強力なクリーンアップが完成する。観客動員面でももちろん切り札になるだろう。甲子園の虎党は熱狂間違いなしだ。
松井にとって生涯の師である巨人・長嶋終身名誉監督も、阪神入りならば反対しないはずだ。「日本のプロ野球界は巨人と阪神が常に優勝争いをしないとダメだ。東西の老舗球団が伝統の一戦にふさわしいペナントレース争いを演じることが、全国の野球ファンを一番喜ばせる道だ」という持論があるからだ。しかも、巨人フロント首脳が独断で背番号55をルーキー・大田に与えたことを、長嶋氏も決して快く思っていないのは事実だ。「世界の王のシーズン日本記録55本塁打を目指せ」という意味で松井に55番を付けさせたのは、監督だった長嶋氏自身なのだから、当然だろう。
FAでヤンキースに移籍する際には、「巨人ファンからは裏切り者扱いされるかもしれないが…」という悲壮な決意を口にした松井だが、今回阪神入りの選択をしても、巨人ファンは「背番号55を奪った巨人フロントが悪い」と松井に同情するだろう。
ニューヨークメディアが火を付けた松井の去就問題は、日本球界にも飛び火して今オフ、日米を股に掛けた最大のストーブリーグに発展する。