それでも、「ここ(巨人)を追いかけられるのはウチだけだ」と落合監督は豪語している。もともと負けん気の強い性格だけに、まだシーズン序盤、簡単に負けを認めるわけはないが、「落合がああ言うと、不気味だね。ハッタリだけでは片づけられない。原も気にしているのでは」と球界OB、関係者が本音を漏らす。
というのも、落合監督は原監督に対し、圧倒的な自信を持っており、実際にそれだけの成績も残している。初めてリーグ3位に終わった昨年でも巨人には14勝10敗。07年は12勝12敗と五分だが、06年は16勝6敗。しかも、セ・リーグで初めて導入された一昨年のクライマックス・シリーズでの完勝がある。
「結局は落合君の方が頭が良かったということだろう」。巨人・渡辺恒雄球団会長がこう断言したほどのドラマチックな結果だった。リーグ2位に終わった屈辱を晴らすために、落合監督は短期決戦の鬼に変貌を遂げていた。第1ステージで阪神に連勝して、リーグ優勝の巨人相手の第2ステージでも3連勝して、日本シリーズでも日本ハムに雪辱、中日に53年ぶりの日本一をもたらしたのだ。それまで2度リーグ優勝しながら日本一になれなかった「短期決戦下手」という酷評を一気に返上してしまったのだ。
中でも巨人とのクライマックス・シリーズは圧巻だった。巨人キラーの山井が開幕投手だと決めつけていた原監督に対し、誰もが予想さえしなかった左腕・小笠原をぶつけ、快勝してそのまま3連勝したのだ。「小笠原? ビデオも見ていないよ」とあわてふためいた首脳陣の姿を報道陣に見られる失態を演じた巨人は、今度は過剰反応。翌年、東京ドームの一塁側のロッカーからブルペンへ出入りする通路に目隠しの衝立を置いたのだ。先発を読ませないための措置だったが、他球団監督は冷笑した。
渡辺球団会長に「頭の差」と決めつけられた原監督には、コンプレックスが植え付けられてしまったのだろう。それだけに、その裏返しともいえる落合監督敵視はすさまじかった。昨年のオールスターでセ・リーグ監督として指揮を執った原監督は、コーチとしてベンチ入りした阪神・岡田彰布監督に対し、「あの人は無視しましょうね」と呼びかけ、同じくセ・リーグのコーチだった落合監督無視の戦術をとったというのだ。
「大人げないな」と球界関係者は苦笑したが、原監督、岡田監督の間には忘れられない怒りの連帯があった。互いに労組・日本プロ野球選手会長としてFAの権利獲得に尽力。それなのに、選手会を脱会した落合監督が堂々とFA第1号になったという思いから共同戦線を張ったワケだ。しかし、落合監督には全く通用しなかった。