「5回表にいったん勝ち越し、その後の4イニングは全て走者を背負いながら窮地を忍んできました。こういう苦しい場面を凌いできたことがチームの本当の力になるんです。リリーフ陣はもちろん、守っていた野手、ベンチから応援していた選手たち。ベンチが初めて一丸となったようにも見えました」(球界関係者)
決勝ラウンドに進出し、世界一を奪還してもらいたい。
しかし、思わぬ伏兵が現れた。雨天などの影響がなかった場合、WBC決勝戦は日本時間3月23日午前10時にスタートする。
この日時がヤバイのだ。高校野球・春のセンバツ大会は、3月19日に開幕する。その組み合わせ抽選会が行われたのは3月10日だった。10日時点では気がつかなかったが、侍ジャパンが強豪オランダに勝ち、スタッフも決勝ラウンド進出への期待を高めるのと同時に、周囲を見渡す余裕も出てきたのだろう。センバツ大会のトーナメント表に気づいた。WBC決勝が行われる23日は、センバツ大会の5日目。こちらも雨天などの影響がなければ、同日は3試合が行われる。その同日11時半開始予定の第2試合に、早稲田実業の清宮幸太郎が登場するのだ。
11時半といえば、ここまでの侍ジャパンの試合展開から察するに、中盤の佳境を迎えるころだろう。状況次第では「侍ジャパン対清宮」のテレビ視聴率戦争となってしまう。
しかも、清宮の対戦相手はかつて松井秀喜を5打席連続敬遠した馬淵史郎監督の率いる明徳義塾高校である(92年夏)。抽選が行われた日、馬淵監督は「清宮も敬遠か?」の質問に、「試合の状況次第ですよ」と笑って返していた。さらに、「同点で9回裏1死三塁。(3番の)清宮、(4番の)野村じゃなく(2人を歩かせて)次で勝負するのは、僕じゃなくても考える」と、リップサービスもしてくれた。
清宮も敬遠か? 92年夏のあの衝撃的なシーンが再現されるのか。それとも、明徳義塾のバッテリーは「平成の怪物封じの秘策」を持っているのか…。それまでWBCを観ていた野球ファンは、11時半の試合開始と同時に、センバツ中継にチャンネルを切り換えてしまうかもしれない。
WBCは民放テレビ局が中継するので、多分、コマーシャルの度にチャンネルをまわし、清宮の打席が終わったら、また変えるというのを繰り返すと思うが、筆者のまわりにいる50代以上は「若いヤツのガンバリが観たいから」と清宮を支持し、30代以下は「絶対にWBC」と言っていた。
「30代から下の世代は、スマホやパソコンなど、テレビ視聴率に反映しない放送ツールを使いこなしています。23日は平日だから、家でジックリ野球中継を観られるのは、ご高齢の人たちです。清宮クンに負ける可能性もありますね」
NPB関係者の一人はそう苦笑いしていた。
一部報道によれば、オランダ戦の最高視聴率は32.6%。過去3大会にも引けを取らない数値であり、野球ファンの熱さ、野球人気の底力を再認識させられた。また、WBCの高視聴率は、プロ野球に携わる全ての関係者の誇りでもある。なのに、清宮とぶつかるとは…。
抽選会後、高校野球の関係者は、清宮が土・日曜日ではなく、平日の試合日程を引いたことにちょっとガッカリしていた。いや、違う。WBCとテレビ視聴率戦争になるのだから、このオトコは本当に“持っている”のだ。(一部敬称略/スポーツライター・飯山満)