キューバとの一戦を控えた前日(3月6日)、侍ジャパンは午後3時から合同練習を行った。ここまでくれば、練習と言っても「調整」だ。小久保裕紀監督(45)もノンビリと構え、ゲージ後方で主力野手陣のフリー打撃を見守っていた。しかし、投手陣からは「アメリカに行ったら、もっと硬いんじゃないか?」の声が漏れていた。彼らが「硬い」とこぼしていたのは、アメリカ仕様に合わせたマウンドのことだ。
メジャーリーグ球場のマウンドは、日本と比べ、硬く、しかも高い。その違いは大会前から指摘されていた。また、ソフトバンクの春季キャンプ地・生目の杜運動公園野球場のブルペンが、1か所だけだが、『アメリカ仕様』に造り替えられた。千賀滉大や後に代理招集された武田翔太がアメリカ仕様のマウンドに早く馴染めるよう、球団側が配慮したのだ。アメリカ仕様のマウンドへの違和感をなくそうと、他投手も自主トレ期間からさまざまな準備をしてきたが、東京ドームに実際に立った途端、「こんなに違うのか?」と驚いたのである。
「侍ジャパンは練習・壮行試合(5試合)を行うにあたって、アメリカ仕様のマウンドに造り替えてもらった球場もあります。3月5日のオリックスとの練習試合からWBCI(主催者)が派遣するグラウンドキーパーが合流してくれたんですが、彼らの作ったマウンドが想像していた以上に硬くて…」(関係者)
オリックス戦前までは日本のグラウンドキーパーがマウンドを造っていた。しかし、ヒューストンアストロズの球場でグラウンドキーパーをしている彼らは、「これでもか!?」と言わんばかりにマウンドに土を盛り、ガンガンとかためてしまった。あくまでも日本側の感想だが、「急斜面すぎる」「スパイクの歯が刺さらない」といった“悲鳴”も聞かれた。
「決勝ラウンドはアメリカ国内で行われます。向こうに行ったら、もっと硬いぞ」(前出・同)
また、投手陣は審判にも泣かされたようだ。MLBの審判がジャッジを務めたのは、一次ラウンド本番から。NPBは壮行・練習試合からの派遣を打診していたが一蹴され、“ぶっつけ本番”になったのである。
「内角球を取ってくれない(ストライクコールしてくれない)。日本なら、確実にストライクなのに」(スタッフの一人)
一次ラウンド本番に先駆け、侍ジャパンは各球団から敏腕スコアラーを借りて、対戦チームのデータ収集を行っていた。その効果が普段、盗塁をあまりしない中田翔が自信を持って二盗した場面であり、「今回のキューバ打線はスピードボールに適応できない選手が多い」との報告を上げていたのだ。
しかし、ストレート中心の配球と言っても、変化球を投げないわけにはいかない。内角球や内側への変化球がウィニングショットにつながる重要な要素になっていたのだが、そこでストライクカウントが稼げないため、侍ジャパンの投手は必要以上の球数を放ることになった。
「一次ラウンドを戦いながら慣れるしかないよね…」
前出のスタッフは、自分に言い聞かせるようにそう語っていた。
年長のNPB関係者にみれば、第1回大会当時はデータと呼べる代物がなく、まさに、ぶっつけ本番だったそうだ。先発投手は実力だけではなく、センスとカンが試された。スタメンマスクをかぶった捕手も「この投手の特徴をどう生かすか」を必死に考えながらサインを出していたという。大会を重ねるごとに対戦国のデータ収集の分析力が進むのは当然だが、日本とアメリカの野球観というか、使用球やマウンドへの違和感はなくなりそうにない。(スポーツライター・飯山満)
【写真】ダルビッシュも苦しんだメジャーリーグの硬いマウンド