「どちらかといえば、日本ハム時代から『いじられキャラ』。若手を引っ張っていくタイプではない」(プロ野球解説者)
独特の発想、コメントからも「宇宙人」のニックネームも付けられている。「サインを覚えられない」「野球のルールを完全に把握していない」など、「本当かよ!?」と聞き返したくなるような話もある。しかし、若手を引っ張っていく「アニキタイプではない」とする証言は本当のようだ。では、金本監督は何を持って「若手の手本」と言ったのだろうか。
パ・リーグ球団のスコアラーが35歳で獲得した盗塁王のタイトルを指して、こう言う。
「今季の糸井は去年までと明らかに違います。本当は物凄い研究家なのかもしれません」
糸井は今季の盗塁企画数は70。成功率7割5分7厘、53個でタイトルを獲得した。成功率だけでいえば、糸井よりも優れた数字を残した選手はたくさんいる。
「基本的に糸井が出塁すると、オリックスベンチは『好きに走っていい』と伝えていたようです。それは昨年も一昨年も同じですが…」(前出・同)
今季の糸井は違った。「考えてから」、走っていたのだ。同スコアラーによれば、糸井が盗塁を試みたときの約80パーセントが「相手バッテリーが変化球を投げたケース」だったという。相手投手がストレートではなく、変化球を投げたときは捕手のスローイングが遅くなる。左ヒザの故障が癒えたおかげもあるだろうが、糸井は相手バッテリーの配球パターンを研究し、考えてから走っていたのだ。
「糸井は打席に入るとき、そして、一塁ベースに到達した後、三塁コーチャーのほうをチラ見します。オリックスベンチが相手バッテリーの配球を教えていたとしたら、『サインが分からない説』はウソであり、自らが考えていたとすれば、研究熱心な選手だと言えます」(前出・同)
絶不調に終わった昨季、オリックス戦を取材したが、糸井は球場に一番乗りし、早出特打ちを行っていた。スタッフに聞くと、「移籍以来(13年)、ずっと続けていたルーティン」だと教えてくれた。素質と努力…。
35歳で盗塁王を獲得できた要因は、身体能力だけではない。「素質と努力」に「研究」が加わったのだ。
奇しくも、盗塁王のタイトルを分け合った埼玉西武・金子侑司も同企画数、同成功率だった。だが、金子は129試合の出場で、糸井は全試合出場。データを確認したら、金子は残り1試合を残して怪我で登録を抹消され、この9月27日時点で、糸井は「残り3試合」となっていた。糸井の単独タイトルが濃厚と思われたが、どういうわけか、この3試合で糸井は一度も盗塁を試みていない。ライバル不在時の抜き打ちを心苦しく思ったのだろうか。だとすれば、男気のある選手ともいえそうだ。(スポーツライター・飯山満)