田中は春季リーグを右肩痛で泣かされた。復帰登板は秋季戦初戦だったが(9月10日)、正確には8月21日の練習試合でも投げている。その“試運転登板”に、阪神は和田豊シニアアドバイザーを始め、5人のスカウト体制で視察している。今年正月のグラウンド開きにも阪神スカウトは駆けつけた。田中側にもその熱意は届いているはずだ。田中入札となれば、外れ1位の準備もしておかなければならない。東京ガス・山岡泰輔(21=右投左打)、明大・柳裕也(22=右投右打)、桜美林大・佐々木千隼(22=右投右打)、立正大・黒木優太(22=右投左打)、作新学院・今井達也(18=右投右打)、横浜・藤平尚真(18=右投右打)は残っていないと見たほうがいい。他球団との駆け引きになるが、1位指名を投手にこだわるとしたら、神奈川大・濱口遥大(21=左投左打)、創志学園高・高田萌生(18=右投右打)が予想される。阪神関係者によれば、「高校生右腕なら、今井、藤平、高田」と見ているそうだ。
近畿大・畠世周(22=右投左打)もいい。140キロ後半のストレートをテンポよく投げ込む。4年春のリーグ戦では1勝しか挙げていないが、78奪三振をマークしている。打線の援護に恵まれなかったようだが、本人は「プロ入り後」を意識してのピッチングも行っていた。まず、関西学生野球秋季リーグ戦初戦(9月3日)、畠は9回のマウンドで2点リードを守れなかった。「ストレートを過信しすぎた」が試合後の本人談だが、近畿大の田中秀昌監督は「プロに行くんだったら、(ストレートで)ねじ伏せないと…」と苦笑いしていた。同試合を視察したプロ野球スカウトによれば、9回のマウンドで畠が首を振るシーンは見られなかったという。つまり、捕手、ベンチともに「ストレート勝負」を選択したというわけだ。畠自身も自分のストレート勝負でどこまで通用するのか、試してみたかったのではないだろうか。右肘に遊離軟骨を抱えているとも聞くが、手術の時期を見極めている状態。某スカウトによれば、「右肘は軽傷。最後の大学生活でアピールするため、あえて手術しなかったようだ。指名を待って、球団側とメスを入れる相談をするのだろう」とのこと。本来ならば上位に消える逸材だが、遊離軟骨で畠が下位でも残っているかもしれない。
九州産業大・高良一輝(22=右投右打)も“指名後”を意識しているようだ。秋季リーグ戦で途中降板する試合もあった。ストレート、フォーク、カーブ、スライダーなど持ち球全てで空振りの取れる“平均点の高さ”を見せつけており、一般論として、大学生投手は4年春、秋でアピールして指名順位を上げようとする。しかし、高良は違う。途中降板の理由は「右肩の張り」とのことだが、こちらも軽傷中の軽傷であり、無理をさせる時期ではないと周囲が配慮したようだ。お膝元のソフトバンクも高評価していたが、阪神スカウトも長く追い掛けてきた投手の一人である。
「故・中村勝広GMが二重丸を付けた投手の一人です。低めに威力のあるストレートを投げることができ、走者を得点圏に背負ってからギアを入れ直すタイプ。それまでは7割程度の力で投げており、先発向きの右腕」(関係者)
故人がホレ込んだ投手がもう一人いる。慶應大・加藤拓也(22=右投右打)だ。体重90?のゴッツイ体から放たれる剛速球に、故人は「呉昇桓に似ている」と称賛し、3年前、有原航平(現日ハム)を視察した際に「今すぐ連れて行きたい」とまで話していたそうだ。
田中の抽選に失敗した後、「野手補強」に切り換えるのなら、鳥谷敬の後継者となりうる左打ちの内野手だろう。吉川尚輝(21=中京学院大)、京田陽太(22=日大)はどのチームも高く評価している。今年6月、和田SAが直接視察し、「(広島の)菊池がショートを守っているみたい」と吉川を絶賛しており、長打力もある早大・石井一成(右投左打)も候補とされている。
神戸学院大の遊撃手・河本光平(右投左打)もいる。他球団スカウトの言葉だが、「守っていて、一歩目が早い」とのこと。守備能力の高い俊足選手で、日本ハム、オリックスも一目置いているという。河本は主将も務めている。昨年、金本知憲監督は高山俊の指名に成功しても、「欲しい!」とお願いし、板山祐太郎を下位で指名した。同じ右投左打ちの外野手で高山とタイプも重なるが、金本体制では「欲しい選手は獲る」の方針。上位で吉川、京田らの指名に成功したとしても、キャプテンシーを持つ河本の指名は十分にあり得る。