また、奪三振数は多いというと、「対バッター」の一対一の勝負をイメージするかもしれないが、そうではない。早大時代に奪三振の記録を塗り替えた和田毅とも違う。和田のストレートはスピードガンで計測された球速よりも、対戦バッターが体感でもっと速く感じるといった雰囲気だった。しかし、柳は走者を置いた場面では牽制球を何度も挟み、それからバッターに投じる。バットに当てられてもフェアゾーンに飛ばない、内外角のコーナーギリギリのところに投げ、ファールでストライクカウントを稼いでいた。打ち損じの内野ゴロで併殺を取りたいとする配球で、結果的に三振も奪っているといったピッチングだった。長所としてもう一つ。投手育成に定評のある横浜高校の出身だからだろう。牽制球、フィールディングも巧い。投手として、「スゴイ」のは田中正義かもしれないが、柳には「巧い」という印象を受けた。
その柳を落合GMが何度も視察したと聞く。昨年のドラフト会議では落合GMが今永昇太(駒大−DeNA)を推したが、県岐阜商・高橋純平(ソフトバンク)に対する「お膝元だから獲らなければ」の他の意見に圧倒されたという。「落合GMの意見が絶対ではない」とするドラフト選考劇だったが、中日の補強ポイントは投手だけではない。投打の20代前半の選手層が薄く、即戦力投手も欲しいが、高校生も獲らなければならない。しかし、信憑性の高いある情報ルートから出た話によると、「今年は5、6人しか指名しない」と言う。『即戦力投手』と『将来性の高校生』の両方を補充するとしたら、まさに少数精鋭。それとも、どちらか一方に偏重しての戦略になるのか? その二択だろう(10月7日時点)。
桜美林大・佐々木千隼(右投右打)、白鴎大・中塚駿太(右投右打)、東芝・谷岡竜平(20=右投右打)、大阪ガス・酒居知史(23=右投右打)を高評価しているとの情報もある。佐々木はサイドスローに近いスリークォーターだが、「スピード、キレよりも球質の重さが持ち味」と評するスカウトが多い。中塚は体重100?を越す巨漢であり、球質も重い。谷岡、酒居もストレートで勝負できる。中日は力のあるストレートの投げられる右投手を狙っているようだ。
高校生も指名するとしたら、他球団は「寺島成輝(履正社/左投左打)、夏の甲子園で評価を上げた今井達也(作新学院/右投右打)、藤平尚真(横浜高校)だろう」と予想していた。高校生投手に対する評価は他チームと代わり映えしない。ただ、「捕手の九鬼隆平(秀岳館高)のもとには足繁く通っていた」との情報もある。肩の強さは折り紙付き。高校生ナンバー1捕手の呼び声も高いが、「センター中心に素直に打ち返す打撃スタイルが良い。打球も力強い」と話すチーム関係者もいた。「打者」としての潜在能力も評価しているのだろう。
創価大・田中に入札が集中した場合、「外れ1位」で今井、藤平らが消える可能性は高い。中日は2位指名のウェーバー制で2番目。柳を一本釣りできたとしても、高評価した高校生投手が残っていないだろう。おそらく、社会人投手を2位指名するだろうが、
「九州熊本の高校生なので、ソフトバンクも九鬼をマークしている。巨人、西武、広島、楽天、DeNAも…」
との声も聞かれた。3位の指名は上位チームからになる。3位指名11番目の中日にまわってくるまで、九鬼は残っていないかもしれない。「打者・九鬼」を将来のクリーンアップ候補として見ているのならば、即戦力投手の指名を一人減らす覚悟も必要だ。