夏の甲子園大会の終盤、チーム関係者がそう語っていた。前田健太の背番号18を継承させるだけの逸材となれば、真っ先に浮かんでくるのが創価大・田中正義(22=右投右打)である。マエケンの前は佐々岡真司・現二軍コーチで、創成期を支えた長谷川良平氏の背番号でもあった。今年3月6日、春季リーグ戦前のオープン戦(練習試合)でのことだ。白武佳久スカウト部長が田中を視察した。時期的に見て、田中は“試運転”の登板ではあったが、同スカウト部長は報道陣に『田中評』を求められると、
「今の時期のプロなら(プロ選手が相手でも)、抑えられてしまう」
とまで言い切った。
「田中の欠点をあえて挙げるとすれば、カーブを投げるときだけ、腕の振りが鈍る。でも、フォーク、スライダーがあるから、1年目から2ケタは勝てると思う」(関係者)
今季はジョンソン、野村祐輔が最多勝争いを繰り広げたが、広島は投手陣の再整備を急いでいる。いつまでも黒田博樹に頼ってはいられない。今村猛の復活で中継ぎ陣も充実しているように見えるが、クローザーの中崎翔太に繋ぐ7、8回は、ジャクソン、ヘーゲンズの外国人投手が奮闘していた。また、主力先発陣のなかで、左投手はジョンソンだけ。投手強化が連覇のカギともなりそうだが、今年の広島は2巡目の指名はいちばん最後となる。社会人、大学生の有名どころの投手が残っていない可能性もあり、創志学園高・高田萌生(18=右投右打)、都城高・山本由伸(18=右投右打)、お膝元の広島新庄高・堀瑞輝(18=左投左打)、福岡大大濠・濱地真澄(18=右投右打)、松山聖陵・アドゥワ誠(18=右投右打)の高校生投手の指名も考えられる。
高田については「手元でボールが伸びるので、対戦打者はスピードガン以上の速さを感じるはず」とし、制球力の高さから「一軍昇格までさほど時間が掛からない」と評価しているという。アドゥワは身体能力が高い。「全身がバネ」と評するスカウトも多かったが、「体が細い。下半身を鍛え上げてから」と“慎重論”も聞かれた。
敦賀気比高・山崎颯一郎(18=右投右打)、東邦高・藤嶋健人(18=右投右打)も指名リストに名前があるという。山崎はストレートがそれほど速くない。しかし、すでに緩急のピッチングができている。藤嶋は「打者」として評価する球団が多かった。巨人、楽天、DeNAがとくにそうで、阪神は「もうしばらく見てから」と含みのある言い方。本人も「(打者か、投手か)迷っている」と話していたが、プロ志願届を提出した9月16日には「ピッチャーで!」と言い切った。投手として評価していたのは、広島と日本ハムだ。
広島の川端順編成部長は夏の甲子園予選を視察した際、「初速と終速の差がない。(調子が)悪いなりにもピッチングができていた」とのコメントを残している。広島には重量感のあるストレートを投げられる投手が少ない。日本ハムの2巡目の指名順番は11番目。こちらは「2位指名で投手か、田中賢介の後継者になりうる内野手を考えている」との情報があるが、左投手の指名を優先させるとも聞いている。2巡目指名で最後の12番目となる広島は、3巡目で最初の指名ができる。「2巡目で別の投手」、続けて「3巡目で藤嶋」の流れになるのだろうか。もっとも、4巡目は下位チームからなので、広島に順番が帰ってくるまで残っていないと思うが…。
日本ハムの1位入札も田中正義。指名リストがけっこう被っており、広島は日ハムとの心理戦となる。
古賀優大(18=明徳義塾高/右投右打)も熱心に見ていた。古賀は高校屈指の捕手で、その守備能力は九鬼隆平(18=秀岳館高/右投右打)に勝るとも劣らないものがある。だが、打撃力は九鬼のほうが上。今季、主にマスクを被ってきた石原、會澤の年齢を考えると、次世代の正捕手候補はやはり必要だ。亜細亜大・宗接唯人(22=右投右打)は打撃力も高い。「打てる捕手」はもう一人いる。NTT西日本・大城卓三(23=右投左打)は都市対抗で山岡泰輔(東京ガス)に打ち勝っている。大舞台も経験しているので、一軍戦力になるまでさほど時間は掛からないだろう。