「進学のほうが、可能性が高いと思う」
進学説を推す声が多く聞かれる。根拠はいくつかある。まず、早実のHPによれば、今年3月の卒業生387人中377人が早稲田大学に推薦入学している。早大以外に進学した学生は2名、こうした強い流れに「斎藤佑樹も逆らえなかった」というのだ。
「父・克幸氏(現・ヤマハ発動機監督)は早大ラグビー部のカリスマですよ。学生時代は主将として全国大学選手権で優勝し、社会人で活躍した後、監督として早大に帰って来ました。早大監督となっていきなり関東大学対抗戦で全勝優勝しており、その息子さんが今度は野球部を盛り上げるとなれば…」(東京六大学リーグ関係者)
父の存在はたしかに大きい。だが、克幸氏は「進路」はおろか、野球に関しては一度も口を挟んだことがない。リトルリーグの関係者によれば、両親はそろって幸太郎の練習、試合を観に来ていたという。プレーに一喜一憂するのは母親の方で、克幸氏はスタンドの後方に陣取り、表情一つ変えずに見守っていた。高校に進んでからはラグビーにも「息子の話はしない」と言い切っているそうだ。
こうした言動から、克幸氏は息子に考えさせ、その選択を応援するのではないだろうか。
余談になるが、克幸氏は阪神ファンである。星野仙一氏とも親しい。金本知憲監督、掛布雅之二軍監督は「左バッター」であり、打撃を磨くうえでは最高の指導者である。星野氏が副会長を務める東北楽天の球団カラーは、クリムゾンレッドだ。早稲田のスクールカラーも“臙脂色”であり、そんな縁が見られるかもしれない。
また、プロ入りの可能性がゼロになっていないとする理由だが、7月12日のオーナー会議後、中日の白井文吾オーナーがラブコールを送った。その前には広島・松田元オーナーも「三塁手もあり得る」と“獲得後の育成ビジョン”まで打ち明けている。
「夏の甲子園予選が始まる前に、どの球団もスカウト会議を開きます。松田オーナーの発言はスカウト会議後に出たもので、この時期の会議では、徹底マークしていく指名候補を確認するものです」(球界関係者)
進学説が色濃くなるなか、徹底マークを続けるということは、広島スカウト陣は清宮の進路に関する有力な情報を掴んだのではないだろうか。白井オーナーの発言にしても、単なるリップサービスとは思えない。
清宮の心境の変化を指摘する声も聞かれた。それは去る5月14日、清宮はRKK招待試合で16年センバツ4強の秀岳館と対戦し、前打者を敬遠される屈辱に見舞われた。秀岳館の鍛冶舎巧監督は、清宮を観たいとする観客へのサービスと、自軍投手の「勝負してみたい」との意向を汲んだものだと話していた。
「清宮は試合後の整列挨拶で、勝敗に関係なく、深々と頭を下げるオトコです。でも、秀岳館との一戦後は違いました。放心状態というか…」
清宮を追い掛けてきたスカウトの一人がそう言う。
かつて松井秀喜氏が甲子園で5連続敬遠に遇い、より高いステージを求めてプロ入りを決意したように、この敬遠が清宮を動かしたという向きもある。「どんな状況にも動じない。そのためにはより高いステージで自分を鍛えていく」の心境に変わったというのだ。
彼自身の口から真実が語られるのは夏の甲子園大会が明けても、少し先になるだろう。9月1日から開催される野球ワールドカップU−18大会後になりそうだが(カナダ)、ここまでたった一度だけ、“将来”に関する目標を語ったことがある。
「東京オリンピックに出たい」
これは野球・ソフトボールが追加種目に決定した直後の囲み取材で答えたもの。東京五輪に対する思いが「夢」ではなく、「目標の一つ」だとしたら…。
現時点で、東京五輪を戦う侍ジャパンはプロアマ混合チームになる可能性が高い。追加種目に立候補した後、プロ野球と社会人、学生、硬式クラブなどは“二人三脚”でピーアール活動を行ってきた。アマチュア球界側は登録メンバーのなかに「登録枠」を求めるとし、プロ側もそれを認める方向だ。今秋のドラフト会議で指名され、プロ1年目から一軍戦に出たとしても、代表入りは並大抵ではない。東京五輪にこだわるのなら、アマチュア枠での出場を狙えば、出場はほぼ確実となる。
侍ジャパンはまだ正式に東京五輪を戦う次期指揮官を発表していない。ドラフト会議前に東京五輪に臨む選手構成のビジョンが明確にされれば、清宮の進路にも大きな影響を与えるだろう。
(スポーツライター・美山和也)