7月11日、侍ジャパン強化委員会を統括する井原敦委員長が報道陣に対応した。個人名こそ明かさなかったが、「7月末までに決定というスケジュールに変更はないか?」の質問には「大丈夫だと思う」と言い切った。この時点で、小久保前監督の下で打撃コーチを務めた稲葉氏の昇格を確信した。
「NPBは日本ハム球団に稲葉氏の今後について確認をし、その動きが漏れ伝わってきました。一部で栗山英樹監督が代表指揮官を務めるのではないかとの一報が出たのもその影響です。稲葉氏は日ハム球団の『スポーツ・コミュニティ・オフィサー(SCO)』の肩書もあります。代表監督に就いたときに球団に迷惑をかけてしまう可能性があるかどうかを確認し、正式候補の一人になりました」(関係者)
強化委員会は数人の候補を立て、稲葉氏だけが前向きな回答をしたという。先の関係者によれば、最後にオファーを入れたという。それは稲葉氏の人柄を高く評価してのことだった。
「稲葉氏は侍ジャパンの常連、精神的支柱と言ってもいい。08年北京五輪を戦った星野ジャパン以降、09、13年のWBCに選手として出場し、以後、コーチとして侍ジャパンを支えてきました。普段はライバル同士である12球団の選手が集まってお互いに遠慮しているときに、チームをまとめようとしてきたのが稲葉氏です。NPBはその姿を見てきました」(前出・同)
侍ジャパンを知るベテラン選手がコーチを経て、指揮官に就任。満を持しての登場と言えるが、新生・侍ジャパンに与えられた課題の中に、東京五輪での金メダル獲得がある。稲葉氏の現役時代の実績は素晴らしいが、「スター監督」の定義で選ぶならば、他の候補者もいただろう。また、実務タイプの指揮官を選んだことに驚く声も聞かれた。
「今後、侍ジャパンは事実上のGM体制となります。ゼネラルマネージャー業を務めるのは強化本部長。稲葉氏以外の候補者はそういう体制で指揮官を務めるのを嫌ったようです」(ベテラン記者)
稲葉氏で候補者が一本化された11日、気になる情報も海外から届けられた。国際オリンピック委員会(IOC)は、東京五輪の次に開催都市について「2大会同時」で決める提案を承認した。2024年夏季五輪大会に立候補しているのは、フランスのパリとアメリカのロサンゼルス。「24年はパリ、28年をロス」と振り分ける方向だが、NPBと東京五輪の組織委員会は、「順番が反対だったら…」とこぼしていた。
次大会でも開催国が追加競技を選べる。米ロスが24年大会の開催地となれば、野球文化の盛んなお国柄からして、野球・ソフトボールが2大会連続で追加競技に選ばれる可能性があったからだ。
稲葉ジャパンが金メダル獲得に失敗すれば、野球の五輪種目復活への可能性はゼロとなるだろう。人柄、人望で選出された稲葉新監督は、前体制よりもキツイ勝利の重圧を背負わされたようだ。
(スポーツライター・飯山満)
写真・野球日本代表 侍ジャパンオフィシャルサイトより