「皆を乗せることができて良かったと思います」
試合後の共同インタビューで、清宮は第一打席の本塁打についてそう評していた。通算104号アーチ、通算本塁打の最多記録は神港学園(兵庫)の山本大貴の残した107本(2010−12年)。西東京大会中での到達も可能となったが、「良かったと思います」の言葉とは裏腹に、清宮は笑っていなかった。
第二打席は平凡なセンターフライ、第三打席は無死満塁の好機にまわってきたが、セカンド後方の凡フライに終わっている。南平高校投手の力投もあるが、怪物は打ち損じたと思ったはずだ。
学校関係者によれば、「校内スケジュールによる影響ではないか?」と言う。
「西東京の予選が始まる数日前まで、早実は校内試験の影響で野球部も一週間ほど活動を停止していました。野球強豪校のなかでは校内試験前であっても、本番さながらの練習試合がガンガンやっているところもあります。実戦練習が遠ざかっていたので、清宮の打撃も本調子ではなかったと思います」
早実はシード校でこの試合で初戦だが、対戦した南平は1試合を勝ち上がって臨んでいる。快音が第一打席だけだったのは“実戦感覚”が鈍ってきたからだとすれば、早実は試合のなかで調整していくしかないようだ。
また、早実は「賭け」に出たようだ。
正捕手だった雪山幹太(2年)を投手に、三塁手だった4番の野村大樹(2年)を捕手に動かす新布陣で臨んでいる。先の学校関係者によれば、『投手・雪山』を初めて実戦テストしたのは、5月28日の招待試合。以後、至学館、九州学院と強豪校相手に好投を続け(練習試合)、背番号1が渡された。「中学時代(神戸中央リトルシニア)はエースだった」(同)ともいうが、1カ月余で大事な夏の甲子園予選本番を託すのはあまりにも危険だ。
「清宮以外、全員が投げることも…」
和泉実監督は大会前、マスコミ陣にそう話している。捕手にコンバートされた野村も6月中に投球練習を行っていた。早実の弱点が投手力であることは指摘されていたが、「大丈夫か?」の声はライバル校からも聞かれた。
新エース・雪山は、たしかに真っ直ぐも速い。スライダー系の変化球でストライクが取れずにカウントを悪くし苦しんでいた場面もあった。しかし、南平打線は試合中盤までヒット数で早実を上回っていた。清宮の一発で先制しても、試合主導権をとることはできず、共同インタビューで笑顔が見られてなかったのは、こうした試合展開に一抹の不安を持ったからではないだろうか。
日大三、東海大菅生、国士館などの強豪・ライバル校は、組み合わせ抽選会の結果、決勝戦まで決勝戦までぶつからないことになった。このクジ運の強さからしても、清宮の「持って生まれたスター性」と「強運さ」を感じる。怪物のバットはまだ試運転状態。本調子となる西東京大会決勝、甲子園本番へと勝ち上がることができればいいのだが…。
(スポーツライター・美山和也)