1972年から現在まで放送されている「必殺シリーズ」の第2作目にあたる作品で、「必殺」を代表する名物キャラクター、藤田まことさん(2010年没)演じる「中村主水」は本作より登場している。
さて、そんな『必殺仕置人』だが、本作は人気番組でありながら、わずか半年の全26話で放送を終えている。『必殺仕置人』が打ち切られた理由は、今となってはとても信じられない話だが、放送期間中に「殺人事件」が発生したためである。
1973年、6月3日、神奈川県川崎市で27歳の男性が殺人および死体遺棄の容疑で逮捕された。男は家族ぐるみで付き合いのあった21歳の女友達を首を絞めて殺害したとみられ、男は容疑を認めている。供述によると、男は前日夜、テレビを観るため彼女の部屋に遊びに来ていたが、テレビを観ているうちに男側が性的興奮を覚え、彼女に抱きついた。しかし、彼女にはその気がなかったため男を振り払ったところ男が激怒。首を絞めて殺害してしまったという。その後、男は何食わぬ顔で妻子いる自宅へと帰宅したが、寝付けなかったため彼女をシーツにくるんで、どこかに捨てようとしたところ、警察の検問にかかり逮捕と相成った。
女性の殺害時、男が観ていたテレビ番組というのが『必殺仕置人』の第7話であり、マスコミや大手新聞社は「『必殺仕置人』に興奮し殺人」、「時代劇が悪影響を及ぼした」とこぞって書き立てたことで、放送局および番組制作局の朝日放送はマスコミから叩かれることになった。しかし、取り調べが行われている途中、男が「俺はテレビ番組に影響されるような安易な人間ではない」と発言したことで、『必殺仕置人』自体には何も罪がないことは明らかとなったが、その影響力から朝日放送は「一般市民が悪人を暗殺する」というテーマそのものを見直す必要が出てきたため、『必殺仕置人』を26話で一旦打ち切ることに決めたという。
その結果、「必殺シリーズ」の3作目、4作目は「必殺」のタイトルが付かない『助け人走る』および『暗闇仕留人』であり、必殺シリーズとは別系統の作品として制作された。
なお、『必殺仕置人』は事件発生から4年後の1977年に『新・必殺仕置人』として復活。こちらは「リベンジ」とばかりに約1年の放送を貫徹している。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)