『ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア25』最終戦
▽4日 後楽園ホール 観衆 1,740人(札止め)
6.9『DOMINION』大阪城ホール大会で、内藤哲也が持つIWGPインターコンチネンタル王座に挑戦する“プロレス界のイニエスタ”ことクリス・ジェリコ。先月22日の後楽園ホール大会に続いて、この日の内藤の試合後、ジェリコからのビデオメッセージが場内のスクリーンに流された。
「ナイトーサン(拍手)。オマエのインタビューを見た。素晴らしい出来だった。とても格好良かったぞ。まるで昔の大物俳優みたいだ。髪も完璧で筋肉も大きく見えた。バッチリ決まっていたな」
こんなくだりから始まった今回のビデオメッセージを、内藤は前回と同様にリング上で寝転びながら見ていた。しかし、なかなか終わる気配がない。ジェリコは、内藤の十八番を奪うかのように、ゆっくりとマイペースに語り尽くした。ジェリコの一人語りは、前回より1分長い3分30秒に及んだ。
普段は「トランキーロ!焦んなよ!」と言いながら相手を焦らせてきた内藤だが、ビデオメッセージが終わると同時にしびれを切らしたのか、「いや〜、クリス・ジェリコさぁ…長いよ!」と嘆いた。インタビュースペースでも「一言で表すなら、長いよ」とぼやいた内藤は「後楽園ホールへご来場くださったお客様もみんな思ったんじゃない?世界的なスーパースターなんでしょ?なら、もうちょっと空気を読んだほうがいいよ。コンパクトに伝えたいことをまとめたほうがいいよ。これは俺からのアドバイスだ」と苦言を呈した。ただ、これはジェリコなりの駆け引きのような気がしてならない。
長いビデオメッセージの中でジェリコは「後楽園と福岡でもオマエにヒントを与えた」とした上で、「『なんでジェリコは俺を狙っているんだ?』と、オマエは繰り返し聞いていたな。それはオマエが新日本の主役だからだ。だからこそ、あそこ(今年の1.4東京ドーム大会)でオカダに負けるべきではなかった。IWGPヘビー級王者になるべきだった。しかし、オマエは失敗した」と内藤に“ダメ出し”した。
「そこで俺の出番だ」と話すジェリコは「新日本の主役として有名になりたいんだろ?俺が助けてやると言っているんだ。このクソバカが。これで分かったか?クリス・ジェリコがオマエをスターにしてやる。俺と闘えば、誰もが有名人になれる。たとえ結果がどうなろうと、オマエの名は確実に世界に知れ渡る。オマエが負けるのは確実だがな」と、内藤をスターにするために内藤を標的にしたと語った。この言い草は理解に苦しむが…。
ジェリコの話に対し、内藤は「彼はメッセージで言ってたね?俺と絡めば誰でも有名人になれると。もう内藤の名前は世界に知れ渡ったと彼は言ってたね。じゃあ、俺はそれでもういいかな」と肩をすくめる。「だって、クリス・ジェリコってピークを過ぎた選手でしょ?レスラーとしてハッキリ言ってなんの魅力も感じないよ。魅力を感じるとしたら彼の知名度ぐらいかな?でも、彼と対戦が決まっただけでそれをクリアしてしまったんなら、対戦する必要ないじゃん」とまで言い切った。メッセージを交わすだけで目的は達成されたのであれば、試合をする必要はないと示唆した。
しかし、内藤はジェリコが最後に放った言葉が気に障ったようだ。ジェリコは「トランキーロでな、ナイトー。スター気取りのナイトーよ。6月10日の朝、オマエは目を覚ましてこう思う。『いったいどうなった?俺はどこで間違えた?』ナイトーよ、俺を怒らせてしまったからだ」と勝利を宣言。「まあ、とにかくそれは置いておいて。今は飲もう(酒をグラスに注ぐ)。俺からナイトーに。カンパイ!ナイトーサン!」と締めていた。
内藤はジェリコの態度が気に入らないよう。「リング上で聞いててちょっと気持ちは変わったかな」と、やはり試合に臨む意向を示した。「あの自信満々の表情、いったい大阪城ホールの試合後どうなっているのか?苦痛に歪むのか、それとも内藤哲也に敗れて悔しがる顔なのか?いったい彼がどんな表情を見せてくれるのか。いや、楽しみだねえ。それをモチベーションに大阪城ホール、俺はリングに立ちますよ」とキッパリ。内藤にしては珍しく前向きなコメントを残した。
内藤にとってジェリコはやっかいな相手かもしれない。ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンを結成し、現在のキャラクター、ファイトスタイルになってからは自分のペースを握ることができていない。それに、1.4東京ドーム大会でジェリコはケニー・オメガに敗れたが、ジェリコの商品価値はむしろ上昇しているのだ。
内藤はジェリコの存在を完全に消し去る必要がある。そうでなければ試合に勝ったとしても、内藤よりもジェリコの評価が上がる危険性が高い。内藤は大きなリスクを背負っているのだ。ただジェリコを相手に完封勝利を収めれば、世界的な知名度も上がり、スターになれるチャンスでもある。
両者は2度の乱闘と、2回のビデオメッセージで前哨戦を終えた。大阪城ホールでの戦いはもうすぐだ。
取材・文 / どら増田
写真 / 舩橋諄