うまにはのってみよ
ひとにはそうてみよ
おおろじにはいってみよ
はむふらいをくうてみよ
まだあるんだねえ こんなみせが
まだいるんだねえ こんなおきゃくが
いちめんのなのはな
かすかなるむぎぶえ
(最後の2行は山村暮鳥の詩「風景」から)
雲雀(すずめ)も囀(さえず)る、かくものどけき春の幸せは、嗚呼(ああ)いつ以来のことであったか。題して「大露路風景」。
ビールは飲まない。新橋でビールを飲むならビアライゼ98に行けばよい。ここでは酒、つまみ、オール300円の享楽に耽(ふけ)る。
日本酒、チュウハイ、ウーロンハイ、トマトハイ、ウイスキー、オール300円。
中トロ、ブリ大根、あじフライ、ハマグリの酒蒸し、肉じゃが、焼きシメサバ、オール300円。
びっくりして座りナントカをしないでね。これじゃ立ち飲みよりも安い。もちろん安いだけじゃない。安くて旨(うま)いことをみんな知っているから、4時開店から大にぎわい。ほぼいっぱいになっても、客はためらうことなく入場してくる。しだいに奥のほうへ詰めざるをえなくなるわたしの位置も、あれこれ思い悩む必要はなかった。
いつだったろうか、元旦のNHKBS放送で見たのだが、オーストリアのウィーン楽友協会恒例のニューイヤーコンサートは立錐(すい)の余地なく満席。正装の男女が年代物の椅子(いす)に掛けて、談笑しながら開演時間を待っております。
奥まった席の客が、通路にさしかかりました。するとどうでしょう、あれよあれよという間に全員が立ち上がりました。由緒ある建物なので全体に小ぶりです。膝(ひざ)前もさほど空いてません。やむを得ないから立ち上がるのではありましょうが、これには感銘をうけました。ウィーン仕草(しぐさ)とでも申しましょうか。あんたのためになんでわたしがわざわざ立たなきゃならないのよといったブー顔の人は、おりません。通されたほうも全員起立している前を横切れば、会釈のひとつもいたします。ゴメンアソバセ、とドイツ語で。
そう、大露路でも込めば客同士が譲り合い、詰め合い、立ち上がるのです、露路仕草で。
居酒屋探訪に、珠玉がひとつ加わりましたのでご報告。いちめんのなのはな。
予算1200円
東京都港区新橋3-10-6