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高橋四丁目の居酒屋万歩計 「HEAVENS DOOR」(へぶんず どあ、ライブハウス)

 東急田園都市線・三軒茶屋駅から徒歩180歩

 ライブハウスでは、ひと晩に4、5組ほどのバンドが出演する。だがそれを通しで聴く人は少ない。お目当てのグループの出番が済むと、さっさと帰るのが普通だ。少しくらい混んでいても、だから心配することはない。
 今夜は三軒茶屋にある「ヘブンズ ドア」というライブハウスに、「花ト散るらん」というバンドを聴きにきた。インディーズのにおいふんぷんたる「汚い美人」というアルバムが気に入って、降りしきる雨のなか「天国の入口」を尋ねあてた。予想通りの地下室。予想通りのスプレー画。チケット+ワンドリンクで2300円。頭がい骨と脳みそが分離しそうになる大音響のなか、バーボンのソーダ割りを。
 プラコップの酒を揺するドラム、天井も裂けよとシャウトするボーカル、三半規管の産毛が地肌で揺れてむずがゆい。こちらの身体も重心を失いかけてグラリと傾きかけるが、かろうじてこらえる。
 中央ロビーで踊ったほうが、跳びはねたほうが、平衡感覚を取り戻せるのかもしれない。ここでは音楽を見聞きする以外なにもできない。やむをえない孤立を孤独とは呼ばない。なるほどね。

 そうこうするうちにミラーボールがゆっくり回り、暗転したステージに昭和の銘仙をまとった長髪の娘が立っていた。「花ト散るらん」のメーンボーカルにして、楽曲の作詞・作曲を担当している夕美帆らしい。
 その歌詞は彫琢されて過不足なく、そのメロディーはどこか懐かしい。クレイジーケンバンドの横山剣が、俗曲の檜山うめ吉が、昭和と対決せずに遊んでいるそのように、歯磨きチューブでいえば終わりも終わり、ほとんど昭和のしぼりかすのようなころに生まれてきた彼らが遊んでいる。それが私には長調の葬送曲のように聞こえる。
 「花ト散るらん」というバンド名の本歌は、百人一首にある紀友則の「ひさかたのひかりのどけきはるのひにしづこころなくはなのちるらむ」か。
 「の」と「ト」の違いがチと気にかかるおじさんではあるが、間違ってもショーワなんかに殉じないでね。行くならへーアン極めてね。橋本治氏(作家)が400字詰め原稿用紙9000枚に書き綴った「窯変源氏物語」なんか、挑戦しがいがあるんじゃないか。
 雨の夜の、インディーズのまま放っておくのが惜しまれる、歌姫と3人の少将だった。

予算2300円。
東京都世田谷区三軒茶屋1-33-19

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