心霊問題の解決が物語の主軸になるが、登場人物間の複雑な恋愛感情によってドタバタ劇になる。この点で高橋の過去の作品『らんま1/2』と類似する。自分の気持ちに素直ではない主人公カップルは、つかず離れずを繰り返す。ツンデレという言葉が生まれる前から高橋作品に見られたツンデレぶりである。脇役は逆に自分の気持ちにストレートで、それがドタバタを拡大する。
同じオカルト系でも週刊少年ジャンプ作品の『地獄先生ぬ〜べ〜』や『ぬらりひょんの孫』では霊や妖怪がリアルである。これに対し、『境界のRINNE』に登場する霊や妖怪は絵柄も性格もユーモラスで間が抜けているものが多い。そのため、オカルト系が苦手な人でも楽しめる内容になっている。
『境界のRINNE』は基本的に1話または数話で話が完結するオムニバス形式となっている。この巻では縁日、海の家、霊道石、化け猫、真宮家の秘密、サツマイモ畑の呪いの話が収録されている。中でもサツマイモ畑の呪いに注目である。園芸部が育てていたサツマイモにマンドラゴラの呪いがかけられたことが事件の発端である。
マンドラゴラ(マンドレイク)は実在するナス科の植物であるが、伝承では人の足のような根っこを持つとされる。引き抜く時に悲鳴を上げ、それを聞いた人は発狂または死亡してしまう。この伝承は『ロミオとジュリエット』や『ハリー・ポッター』でも言及された。恐ろしい伝承であるが、『境界のRINNE』では呪われたイモに目や口が現れ、「アバラ折れたな」「治療費出せやコラ」などと悪態をつく。気持ち悪いが、コメディらしくユーモラスな呪いに描かれている。
サツマイモ畑が呪われた理由についても、高橋作品の頻出パターンながら、話の運び方が巧妙で読者を裏切らせてくれる。この巻では物語全体に関係しそうな大きな伏線は登場しないものの、日常ドタバタを楽しませる安定感が存在する。
(林田力)