清風亭で会談が行われたことは史実であるが、これまで、会談内容は土佐商会による亀山社中の支援など事業面が中心と見られてきた。当時、亀山社中はワイルウェフ号沈没により事業面で行き詰まっており、一方で土佐藩は貿易事業に乗り出すために人脈を求めていた。この両者の経済的利害の一致が会談成功の要因とする。
後に龍馬は後藤に「船中八策」を提示し、それが大政奉還の建白書につながる。これは両者の信頼関係が深まった後日の話であり、そこまで清風亭会談の時点で見通してはいなかったとする見方が主流である。
ところが『龍馬伝』では、龍馬は清風亭会談で大政奉還の構想をすべて話している。それによって後藤の心をつかむことに成功した。史実の観点では大胆な解釈であるが、多くの日本人にとって憧れのヒーローである龍馬を、現代社会に求められているリーダーとして描いたという意義がある。
日本の伝統的なリーダー像は「黙って俺についてこい」型であった。それは集団に安易に同調する伝統的な日本社会には合っていた。しかし、自我を持つ人間が増加した現代では通用しない。明確にビジョンを提示して納得させる必要がある。
また、本音と建前を分ける日本人は本音を隠すこと、出すとしても小出しにして、できれば最後に出すことを交渉巧者と考える傾向があった。しかし、これでは相手の信頼を勝ち取ることはできない。仮に交渉は有利な条件で妥結したとしても、後日真相を知った相手方から不信感を抱かれ、長期的な関係を築くことはできない。
この意味で、最初から大政奉還の構想を説明する龍馬は現代的である。『龍馬伝』では西郷隆盛(高橋克己)も桂小五郎(谷原章介)も早い段階から倒幕の構想を表明し、大戦争を避けたい龍馬との価値観の相違を確認している。本音を隠して腹の探り合いをするのではなく、ストレートに意見を戦わせている。ここに清々しさが感じられる。
(『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』著者 林田力)