映画『座頭市』『兵隊やくざ』で知られる俳優の故・勝新太郎がそうだった。
ここに書くまでもなく有名な話だ。市川海老蔵は、勝新太郎や歌舞伎界の諸先輩方のスタイルを踏襲していると言ってもいい。
しかし勝と海老蔵との大きな違いは、勝は超優秀なミュージシャンでもあった、ということだろう。アルバム『ザ・マン・ネバーギブアップ』のことを言っているのではない。勝は三味線・長唄の師匠として、10代半ばにして深川の芸者たちに「チン、トン、シャン」と稽古をつけていたのだ。演奏しながらずれたチューニングを直せる三味線奏者は、昭和の頃は勝新太郎を入れて日本に3人ほどしかいない、とまで言われていたほどである。いわば三味線の「名人」だ。
芝居、音楽、お笑いに関係なく、芸事全般で一番大事なのは「間(ま)」なんだと、匠たちは皆、口を揃える。勝とて例外ではない。ビートたけしと勝新太郎の対談(「パンツ履かない」宣言以降)で以下のようなやりとりがある。
「勝さん、ただの滅茶苦茶な人かと思ったら、全部分かってるんだもん。間から何から。ずるいですよ」(たけし)
「うん。子供の頃からそういう環境だったから」(勝)
生涯、勝の芸は「チン、トン、シャン」のリズムと間に支配されていた。それが豪快な「遊び」と融合され、不世出の大役者になったのではないか。
そして蛇足だが、ビートたけしとの対談時は、本当にパンツを履いていなかったのではないか。「今、パンツを履いてるかどうか」について勝は対談時まったく言及していないが、こんなくだらない想像で筆者が今でも遊べるぐらい、勝新太郎という男は、死してもなお我々を楽しませてくれるのである。
(みんみん須藤)