W主演の一人のキム・テヒは韓国ドラマ『マイ・プリンセス』でも無邪気な女子大生と複雑な生い立ちの皇女という二面性を演じていたが、『僕とスターの99日』も清楚なイメージのトップ女優と、下町の飲み屋が好きという奔放さの二面性も有している。日本語の台詞に挑戦という点も見どころである。たどたどしい日本語が、かえって心からの言葉であるとの説得力を与えている。
韓国女優を主演とした『僕とスターの99日』は、韓流人気への便乗作との厳しい評価もなされているが、韓国ドラマの魅力を取り込んだ作品に仕上がった。まずさらに韓国ドラマのコメディ作品が持つ底抜けな明るさもある。シリアスなストーリーの中にも笑いを込めている。
今回は航平が突進してきたウエディングケーキから身を挺してユナを守る。そのために航平はケーキまみれになってしまうが、航平の顔を見たユナは笑い出し、「ケーキを食べたかったの」と言う。自分を守ってくれた人に対して失礼な話であるが、思ったことを口に出せる、遠慮のない無邪気な明るさがドラマにある。
そして脇役達もユニークで魅力的である。芝居かかったトップ俳優の高鍋大和(佐々木蔵之介)や、航平にアプローチする大家の沼田光代(片桐はいり)ら一筋縄でいかない面々が揃っている。
主人公カップルは冴えない日本人アラフォーと韓国人トップ女優というアンバランスな組み合わせだが、それだけが日韓カップルではない。テソン(テギョン)と並木桃(桜庭ななみ)や、夏目純吉(古川雄輝)とチョン・ヒジン(韓英恵)もカップルに発展しそうな雰囲気で、日本人と韓国人の恋の普遍性を描いている。
一方で、ビジネスで登場する日本人は醜い。ユナが必死に探していたテソンに手切れ金を渡して消えることを迫った事務所社長の芹沢直子(朝加真由美)や、スキャンダルを作出する橋爪和哉(要潤)である。橋爪の「こっちはビジネスでやってんだから」との台詞が象徴する。キム・テヒが「日本が好きな国」と語るように日本社会には美点もあるが、醜い面も浮き彫りにされる。
さらに韓国ドラマの定番である家族関係の過去にさかのぼった因縁も登場する。『僕とスターの99日』ではユナには20年前に生き別れた弟がいる。二人を結びつけるものは、北斗七星とカシオペア座が描かれたキーホルダーである。天体観測が趣味の航平が二人を結びつける存在になるという凝ったシナリオになっている。
同日にNHK大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』は第44回「江戸城騒乱」を放送した。大阪の陣が終わった今回は、福(富田靖子)との確執や世継ぎの問題がメインになる。これは歴史上の江で最も有名なエピソードであるが、ここでは江は悪役として定着しており、江を主人公としたドラマでは描きにくい話である。
ところが、意外にも『江』では正面から取り上げている。『江』は福を悪役に描き、国松が世継ぎにふさわしいと描くことに成功した。豊臣家の滅亡を喜ぶ福や竹千代と、江(上野樹里)や千(忽那汐里)の悲しみに配慮する国松を対比させる。これは三姉妹の悲劇のクライマックスである大阪の陣と世継ぎ問題を重ね合わせる『江』ならではのストーリーになった。
(林田力)