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『南極大陸』への当てつけにも聞こえる『家政婦のミタ』の台詞

 日本テレビ系水曜ドラマ『家政婦のミタ』が、10月26日に第3話「母を殺した父の正体を暴いて」を放送した。ミステリアスな家政婦という組み合わせが話題となり、今クールの視聴率競争のダークホースとなった『家政婦のミタ』。今回はドラマ競争の大本命『南極大陸』への当てつけになるようなセリフも飛び出した。

 家政婦・三田灯(松嶋菜々子)の派遣先の阿須田家の主・恵一(長谷川博己)は情けない夫・父親であった。恵一は勤務先のハウスメーカーの同僚・風間美枝(野波麻帆)と不倫関係にあり、妻の凪子(大家由祐子)に離婚を迫ったことが妻の自殺の原因であった。これだけでも最低であるが、恵一は最初から結婚したくなかったと自白する。
 言い訳ばかりで逃げてばかりの恵一に腹を立てた長女の結(忽那汐里)は三田に恵一の勤務先で不倫の事実を暴露させる。子ども達に追及されても恵一は正面から向き合わず、「もう疲れた」と投げ出してしまう。
 長男の翔(中川大志)からは「偉そうに他人の家なんか作ってるんじゃないよ」と言われる。このセリフは家族と向き合わなかった仕事人間への痛烈な非難である 。これは恵一だけでなく、戦後日本の主流であった仕事人間全てに向けられる非難である。

 同じクールのTBS系日曜劇場『南極大陸』では南極観測という困難なプロジェクトに取り組んだ熱い男達のドラマである。南極観測という国家的プロジェクトに直接関係しない子どもたちまでが夢を見て、登場人物皆が一丸になって取り組み、応援する。主題歌は中島みゆきが担当しており、同じく中島みゆきが主題歌を担当したNHKのドキュメンタリー『プロジェクトX〜挑戦者たち〜』を彷彿させる。
 『南極大陸』も『プロジェクトX』も感動的であるが、その影には家族関係や地域コミュニティなど仕事優先の犠牲にされたものも多かった。現代日本の問題は高度成長期的なモーレツ主義に起因するものも少なくない。その意味では『南極大陸』や『プロジェクトX』で郷愁に浸るだけでは非生産的である。父親失格の恵一に「偉そうに他人の家なんか作ってるんじゃない」と言う翔の台詞は登場人物皆が南極観測優先で盛り上がる『南極大陸』への当てつけにもなる。
 TBS開局60周年記念番組を銘打った『南極大陸』は主演の木村拓哉を始めとする豪華キャストに豪華セットと今クールで最も注目度の高いドラマの一つである。これに対して松嶋菜々子の2年ぶりの連ドラ主演となった『家政婦のミタ』は相対的に低予算ながら高視聴率というコストパフォーマンスの高さで、『南極大陸』と対比される。その『家政婦のミタ』で『南極大陸』的な感動に水を差す台詞が登場したことは興味深い。仕事優先の戦後日本的価値観に替わる価値を打ち出せるか注目である。

 『家政婦のミタ』の情けない夫に対し、TBS系金曜ドラマ『専業主婦探偵〜私はシャドウ』では「美しすぎる夫」が登場する。これは粕谷紀子の漫画『私はシャドウ』を原作としたドラマである。
 専業主婦の浅葱芹菜(深田恭子)は夫の浅葱武文(藤木直人)にベタ惚れで、「ふみクンのために生きたい、ふみクンの影でいたい」と言うほどであった。しかし、武文からは気持ち悪いと突き放される。ひょんなことから私立探偵・陣内春樹(桐谷健太)の探偵見習となった芹菜は、武文の心を取り戻すために奮闘する。10月28日放送の第2話では武文の上司・新山千早・IR部部長(石田ゆり子)の魔の手から武文を守ろうとする。
 頭の中は武文のことでいっぱいの芹菜は、「マリー・アントワネットの生まれ変わり」な どの発言で浮世離れしたイメージのある深田恭子の適役である。今回も陣内に「メイクして」と言い放ち、「何様だ」と歯ぎしりさせるなど天然お嬢様ぶりを発揮している。
 一方で深田の不思議キャラは『富豪刑事』のようにゴージャスさと結びついていたが、芹菜は夫の影にすらなれない地味な存在である。運動音痴かつ機械音痴で、武文との不倫を目論む千早を目の前にして何も言えない弱気な存在である。そのために芹菜のウザさも嫌味にならず、むしろ応援したくなる。
 その芹菜が愛してやまない武文は芹菜に冷たく、この点でも芹菜に感情移入したくなる。武文を演じる藤木直人は前々クールの月9ドラマ『幸せになろうよ』でヒロインをもてあそぶ悪い男として登場したものの、中盤では妻に捨 てられるというカッコ悪い役であった。
 『専業主婦探偵』でも千早からのアプローチにまんざらでもなさそうな様子である。しかし、千早への接近も昔の上司で芹菜の父・藤元泰介(小日向文世)と関係する思惑があっての言動と描かれる。ここではカッコいい藤木直人が期待できそうである。

 『家政婦のミタ』では感情を露わにする現代の女子高生を演じた忽那汐里であるが、NHK大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』では人形のような千姫を演じている。30日放送の第42話「大坂冬の陣」は徳川秀忠(向井理)が大阪城に乗り込む。まるでドラマ前半で歴史上にイベントに絡んでいた主人公・江(上野樹里)が乗り移ったような活躍である。
 『江』の秀忠は豊臣家との両立を望む設定である。徳川家康(北大路欣也)の前では無力という史実に沿いながらも、独自エピソードを織り込みドラマとして筋を通した。

(林田力)

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