他にも「切腹の美学」というものもある。
切腹という自殺は、日本の武士道精神や忠義の象徴として美化されてきた。切腹は武士にとって、責任を果たし、名誉を守るために行われてきた。何らかの失敗や過ちを犯しても、だまって切腹すれば罪に問われなかった。
太平洋戦争の特攻隊も、祖国への愛と自己犠牲として美化され、彼らの献身は英雄として称えられた。
小説や映画などで主人公が樹海や滝、崖で美しく死に、そこが自殺の名所になる場合もある。
かくのごとく日本は自殺を美化する伝統がある。
そしていま日本は、世界でもっとも自殺が多い国の1つだが、これは伝統的に「自殺の美化」「自殺の肯定」があるからではないかと考えられている。
猿之助容疑者は、自殺前に家族会議を開き「死んでもう一度やりなおそう」と一家心中を行うことになったというが、これも日本人独特の文化だ。
猿之助容疑者の関係者やファンも、猿之助容疑者に「逮捕されるとは思わなかった」「それでも一日も早く舞台に戻ってきてほしい」と、肯定的・同情的な意見が多くある。
しかし、日本に自殺に対して肯定的な文化や伝統があったとしても、やはり死んではならないと思うのだ。
2021年の日本財団『第4回自殺意識全国調査』によると、4人に1人が本気で自殺したいと考えたことがあり、4人に1人が、周りの人を自殺で亡くした経験があるという。
そして7割が自殺を考えたときに誰にも相談をしていない。
もし「自殺したい」と思ったり「世の中から消えてしまいたい」と思ったら、ともかく誰かに相談してほしい。
相談相手が思いつかない場合でも、スマホで「自殺 相談」で検索すると無料で相談を受け付けてくれるところが出てくる。話すのが苦手な人でもSNSのチャットで相談を受け付けてくれるところがある。勇気を出して電話なりチャットなりをしてほしい。
自分の命といえど、その命は自分1人のものではないのだから。
プロフィール
巨椋修(おぐらおさむ)
作家、漫画家。22歳で漫画家デビュー、35歳で作家デビュー、42歳で映画監督。社会問題、歴史、宗教、政治、経済についての執筆が多い。
2004年、富山大学講師。 2008~2009年、JR東海新幹線女性運転士・車掌の護身術講師。陽明門護身拳法5段。