しかし2戦目にはこの嫌な雰囲気を平良拳太郎が一気に変えてみせた。オープン戦で9イニング無失点の勢いそのままにシーズン初登板に挑んだ右腕は、6回まで投げきりわずか85球、被安打4、与四球1、奪三振7とほぼ完璧な内容でチームに今シーズン初勝利をもたらした。トミー・ジョン手術からのリハビリを経て888日ぶり、しかも古巣・ジャイアンツからの勝ち星と、ストーリー性も完璧なシチュエーションは、横浜スタジアムを熱狂させるに十分だった。
見事なピッチングの裏には「ヒカル(伊藤)さんにリードで引っ張ってもらったことに感謝したい」と平良も振り返る、女房役・伊藤光の存在があった。この日も2回に唯一ともいえるピンチを迎えたが、切り抜けた後に「お前が思っているよりいいボールが来ているから!」と激励され、その後は相手に2安打しか許さない無双状態で、スイスイと勝ち星を手にした経緯もある。
三浦大輔監督も「光も低めだけではなく高めも、ストライクゾーンの四隅を目いっぱい突きながら投球したと思います」とベテランの頭脳を高評価。バトンを継いだ入江大生が迎えたピンチでは、強気にストレートで連続三振に仕留め切り抜けると、伊勢大夢もほぼストレートで三者凡退に。最終回は開幕2戦目に黒星を喫したストッパー・山崎康晃に、決め球のツーシームを見せ球として選択し、最終的にはストレートで抑え込ませた。
経験がモノをいう扇の要のポジション。臨機応変で変幻自在のリードを武器に、プロ16年目のシーズンも粉骨砕身、チームの勝利に貢献する。
写真・取材・文 / 萩原孝弘