昨年と一昨年に行われた1000人の幼児・小学生児童を対象とした同社のアンケートでは、2年連続で男子の1位がサッカー選手、2位が野球選手だった。刑事や警察官、学者や博士なども人気で、今年の結果とは大きく違っていた。
こうした子どもたちの心境の変化はコロナ禍の影響が大きいとみられており、同社では、リモートワークの導入によって自宅で仕事をする会社員の親の姿を目の当たりにしたことが大きいのではないかと分析している。
また、同アンケートの別項目にある「最も幸せを感じているとき」に対する回答では、「家族といるとき」が女子小中高生でいずれも1位に。男子小学生は2位、男子中高生は3位と上位に並んでいたことからも、子どもたちがコロナ禍で多くの時間を家族と過ごした会社員に対して大きなメリットを感じた可能性を読み取れる。
あるいは、コロナ禍で飲食店や小売業などが困っている様子と比較して、コロナ禍でも失業せずに家で働けていた会社員に安定性を見いだしたと考えることもできる。
いずれにしても、子どもたちの将来なりたい職業の選択は、非常に現実的なものに変化したと言える。コロナが影響しているとはいえ、なぜ子どもたちは将来に対してこんなにも現実的になり、安定性を重視するようになったのだろうか。
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その答えの一つとして、「生活や健康面で不安を感じているから」という理由が挙げられる。実は、人間が大きな目標を抱えられるような心理に至るまでには、ある程度の条件が必要だといわれている。
心理学者アブラハム・マズローが唱えた「自己実現理論(欲求段階説、欲求5段階説)」によれば、人間は自分の持つ能力を活かして何らかになりたいという「自己実現」に向かって絶えず成長すると仮定されている。ただし、この自己実現欲求が生じるまでにはその他の欲求が満たされていることが前提であるとして、各欲求には段階が設定されている。
まず初めに、食事や排泄といった生きていく上で最低限の「生理的欲求」、次に健康上の安全性や経済の安定性などを求める「安全の欲求」、次に社会的役割や愛を求める「社会的欲求と愛の欲求」、次に自分の価値を認めてもらいたいという「承認欲求」、そして最終段階にあるのが「自己実現欲求」だ。マズローは、生理的欲求から順に、その段階の欲求が満たされてはじめて次の段階の欲求が生じるとしている。
この説をもとにすると、アンケートで子どもたちに現実的な安全性や安定性を求める傾向が強く見られたのは、コロナ禍において生命や生活が脅かされる「安全性の欲求」の段階に危機を感じることが多かったからだと考えることができる。つまり、子どもたちが将来に安定性を望むのは、現在の生活に不安を感じているからこそなのだ。
コロナ禍で緊張状態が続く中、安定した生活や家族の団らんというささやかな幸せに価値を見いだしている子どもたちに、心を打たれずにはいられない。1日でも早くコロナ禍が収束することを願うばかりである。
文:心理カウンセラー 吉田明日香
参考:『第32回「大人になったらなりたいもの」調査結果』第一生命
https://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2020_102.pdf
『第31回「大人になったらなりたいもの」調査結果』第一生命
https://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2020_010.pdf
『第30回「大人になったらなりたいもの」調査結果』第一生命
https://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2018_068.pdf