感染への不安や、経済的な問題に関する不安といったストレス状態が続く中、外出自粛により家族との時間が増えた。これまで取りづらかった時間の中で絆を深める家族もいる一方で、虐待やDVといった家庭内トラブルが増加するリスクがあることも無視できない。
学校の休校や休園は延長され、毎日3食分のメニューを考えなければいけなくなったり、散らかされる部屋を片付ける頻度が増えたり、いつもより多く子供の要求に応えなければいけなかったりと、母親の家事や育児の負担は増加するばかりだ。
また、親は自宅にいても仕事をしなければならなかったり家事があったりと、ずっと子供の相手をしてやれるわけではない。いつも親とのスキンシップを求めている小さな子供にとっては、コロナ禍にある現在の状況を理解できないまま、一緒にいるのに相手をしてもらえないことがストレスになる。自分の気持ちをうまく伝えることができない小さなこどもは、泣いたりわめいたりすることで不満を表現するが、親にとってはこれもまたストレスとなる。
遊びたい盛りの小学生は、以前のように友達と自由に遊ぶことができず、その状況がさらに延びることでストレスを抱えるだろう。思春期や反抗期を迎え、もともと親との関係が思わしくない中高生にとっては、学校に行って気分転換することもできず、親とずっと一緒に過ごさなければならず、ストレスをためやすい状況が続くことになる。そこで無理矢理外出したとしても、さらに親とのトラブルが増え、お互いのストレスは増加してしまう。
親は、感染や家計への不安、家事や育児の負担といったストレスに加え、子供の泣きわめく声や、「遊びに行きたい」という要求への対応、反抗的な態度など、思い通りにいかない子供たちの様子が怒りの引き金になりやすい。そして、第三者の目がなく、客観的になりにくい閉鎖的な環境の下では、感情をコントロールすることが難しくなる。その結果、子供に対する身体的な虐待や、必要以上の罵倒、存在を無視するどの心理的虐待、あるいは夫婦間でのDVが起こりやすくなる可能性がある。また、たとえ子供に対して直接的な身体的・精神的暴力がなかったとしても、子供が夫婦間の暴力や、罵り合いなどの険悪な雰囲気の中にいるだけで、子供の心の成長に好ましくない影響がある。
虐待やDVだと自分でも分からず特に意識せずにかける何気ない一言が、思いがけず相手の心を深く傷つけていることもある。距離が近い関係だからこそ、相手の心を私物化しやすくなったり、相手の気持ちに鈍感になりやすいのだ。
意識的にしろ無意識的にしろ、虐待やDVを予防するためには、まず自分や家族にもそうした事態を引き起こしてしまう可能性があることを自覚しておくことが大事だ。そして、何気ない虐待やDVがいかに子供の成長にとって悪影響を及ぼすか理解することが必要である。
そして、家庭内不和に陥らないためには、まず家庭の基盤である夫婦が健全な精神状態を保つことが必要。夫婦がお互いをいたわりながら、それぞれがストレスを軽減できるように協力して対策を立てると円満な家庭を維持しやすい。例えば、小さな子供のいる家庭では、「1日2時間」など具体的な時間を決めてお互いに1人で休憩できる時間を持てるようにすると、少しでもストレスが解消でき、育児の負担が片方だけに大きく偏るのを防ぐことができる。また、家事や育児の役割分担をする際には、互いの出来具合の悪さを責めるなどしてはいけない。不要なストレスをためてしまわないよう、思いやりを持って接することが大切である。
文:心理カウンセラー 吉田明日香