昨年、ウエスタンリーグ最終戦の試合後、自らの言葉でソフトバンクを退団することをファンに伝えている。異例とも言える本人による退団発表は、内川の無念の想いが色濃く滲む言葉とともに発せられた。また、去り行く球団に対して、決して相応しくない内容も含まれていたかもしれない。だが、「もう一度、一軍の打席を」と、現役として、さらに一軍でのプレーを求めての感情から来るコメントであることは痛い程、感じ取れた。
内川にとってホークスでの10年間は、選手としての絶頂期だったと言える。
移籍1年目でMVPに選出され、史上2人しか達成していない両リーグでの首位打者のタイトル獲得という偉業も成し遂げている。2017年WBCでは日本代表のクリーンアップにも座った。幾度となく、主力として日本一という頂点にも上り詰めた。数えきれないほどの栄光を手にしながらも、それでもなお、2021年もバッターボックスに立つことを諦められず、違うユニフォームを着ることを選んでいる。
今季、2年振りとなる一軍出場の機会がいつ訪れるのか、そして、現役選手としてNPB最多となる2171安打の数字を、どこまで伸ばして行けるかなど、新天地を選んだベテランに対し、ファンの関心が尽きることはない。特に今回は11年振りのセ・リーグ復帰となるため、シーズンを通しての各球団の主力投手との対戦が大きな楽しみでもある。
そして、楽しみはバッティングの他にもある。2019年には一塁手としてゴールデングラブ賞に選ばれており、37歳にして初めての守備での栄冠は、ベテランと呼ばれるキャリアを積みながらも、プレーヤーとしてのクオリティが衰えていないことの証だ。スワローズでは村上宗隆、山田哲人らとともに構成されるであろう内野守備の連係も見ものとなる。
2月1日からのキャンプでは一軍メンバーとして、新しいチームメイトたちと汗を流しているニュースが伝えられている。内川ほどのベテランであれば、多くの経験を周囲に伝えることが出来ることは間違いない。だが、もうしばらくは、あくまでもプレーヤーとしての個性を貫き、かつてのようにシュアなバッティングを再び目の当たりにしたい。内川本人同様、我々ファンも、そう願っている。
(佐藤文孝)