被害者は世田谷区に住む客室乗務員のAさん。川に女性が浮いているのを、通りがかったサラリーマンが発見した。近くにはバッグやハイヒールなどAさんの所持品が散らばっていたが、物を盗られた様子は見られなかったそうだ。また、遺体に外傷は見当たらず、検死でも溺死と判断され、当初は自殺とみられていた。
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しかし、Aさんを知る友人や家族からは「自殺はあり得ない」という声が上がった。Aさんは今年の春から客室乗務員として働くことが決まっており、1カ月前まではロンドンで講習を受けていたという。3月13日には初フライトが予定されており、うれしそうに家族に話していたことも判明した。
その後、慶應大学附属病院で司法解剖が行われた結果、Aさんが水を飲んでいたことが判明し他殺の可能性が浮上した。溺死の場合は水を飲むことはない。そして死因は窒息死、もしくは首を絞められたことによるショック死であることも分かった。体内からはA、もしくはAB型のものとみられる精液が検出され、すぐに警察はAさんの交友関係を洗い出すことにした。
そして浮上したのが世田谷区の修道院の神父で、ベルギー人の男性Bだった。実はAさんは客室乗務員になる前、Bが勤める修道院の乳児院で住み込みの看護師として働いており、しかも交際していたことが分かった。
事件の5日前にBとAさんが原宿のホテルに入るところを目撃されていたほか、事件当日の午前5時頃には事件現場から、Bが所有している車らしきものが走り去るところを近隣住民が見たそうだ。
他にも証言や証拠が複数集まったことで、警察はBを重要参考人としてマーク。しかし、相手はローマ法王庁から派遣された神父ということもあり、一歩間違えれば国際問題に発展する恐れもあった。このため、マスコミや教会に騒がれないように慎重に捜査を進めたのだが、ある新聞社がこれをすっぱ抜いてしまう。
同年5月5日には警視庁がBに1回目の任意出頭を要請するも、教会側が拒否。5月11日に再度要請したところ、バチカン市国大使館の1等書記官と弁護士立会いの下で取り調べを了承した。警察の取り調べに対してBは「Aさんとホテルで休憩したが、相談にのっただけで何もしていない」と男女の関係を否定。その後も取り調べや捜査が続いたものの、決め手に欠き逮捕には至らなかった。そうしているうちにBは衰弱を理由に入院し、6月10日には療養のためにベルギーへ帰国した。出国手続きの際には、入国管理局が警察に連絡したものの、Bには逮捕状も勾引状も出ていなかったため手の打ちようがなかった。
結局、Bの突然の帰国により事件は迷宮入りしている。2020年7月現在も犯人は捕まっていない。当時、乳児院で働いていたAさんの元同僚の証言では、Bによるセクハラが横行していたことが判明している。また、教会の他の神父による性虐待事件もあった。
Aさんは事件の3日前から行方が分からなくなっていたが、実は失踪当日にBの教会を運営する事業団体から速達郵便が届いていたことが分かっている。彼女と同じ下宿に住む人からは、その郵便物を読んでAさんの顔色が変わったという証言もあった。
また、Aさんが所属していた航空会社では、客室乗務員が金や麻薬の密輸に関わった事件も起きていた。国際的な密輸ルートに関わる謀略事件に巻き込まれたという説もあったが、果たして真相は。