「欲を言えばまだまだありますけど…。チームとして必要なところはできた」
同日の試合後、矢野監督は記者団にそう答えている。歯切れが悪かったのは、欠点も露呈してしまったからだろう。
「打線はもう一度組み直すことになると思います。練習試合の最終戦ですが、先に3点を挙げたのは阪神の方。なのに、その後、全然得点を挙げられませんでした」(在阪記者)
阪神がセ・リーグトップで練習試合を終えた勝因は「打線」だ。対外試合でまだ1本も本塁打の出ていなかった主砲・ボーアのバットが火を噴き、他選手を勢いづけた。しかし、敗因もまた、在阪メディアが指摘するように「打線」にある。ボーアが左投手に全く適応できていないのだ。
メジャーリーグ時代のボーアを知る米国人ライターがこう言う。
「昨年、エンゼルスで大谷翔平とチームメイトでした。米国では、ボーアは『対右投手用の一塁手』と位置づけられています。マーリンズ、フィリーズ、エンゼルスと渡り歩きましたが、『プラトーン』を前提に獲得された選手でした」
プラトーンとは、他選手との併用。左投手が先発する試合では他選手にスタメンを渡し、スタメンで試合に出られるのは、対右投手の時だけだった。
もっとも、本人は「左投手でも打てる」と思っており、フル出場を訴えてきた。何度かチャンスをもらったが、そのチャンスをモノにできず、今日に至っている。
「阪神打線がペナントレース本番でも爆発できるかどうかは、全てボーア次第」(前出・在阪記者)
関西地区で活躍するプロ野球解説者によれば、矢野監督はショートのポジションでは「プラトーン」を予定しているという。2年目の木浪と北條を使い分けるそうだが、ボーアに関しては「4番でフル出場することが理想」と話していたそうだ。
「メジャーリーグ時代の対左投手の打率ですが、ボーアは2割をやっと超える程度しか残していません。技術的な理由があるのかもしれません」(前出・米国人ライター)
オープン戦、練習試合でのボーアの対左投手の打率だが、16打数ノーヒット。開幕カードでぶつかる巨人、次節の東京ヤクルト、第3節のDeNAにも好左腕がいる。ボーアのプラトーン起用も検討したそうが良さそうだが、こんな指摘も聞かれた。
「スアレスから藤川球児に繋ぐ継投策がうまく行きました。1点差で8回に突入すれば、この2人でなんとかなると言うのが矢野監督の心境でしょう。中継ぎ投手をドンドンと投入する試合になるのでは」(前出・プロ野球解説者)
先のオリックス戦後、矢野監督は「チームとして必要なことはできた」と言っている。「必要なこととは?」と聞き直した記者団に対し、矢野監督は「誰が出ても戦力面で大きく変わるチームではないので」と誤魔化し、ハッキリとは答えなかったが、この練習試合の期間中、二軍で調整を続けていた高橋遥人のことを気に掛けていたそうだ。
近年の阪神は外国人スラッガーを獲得しているが、結局は投手力で凌いできた。今年も“投手頼み”となりそうだが、誰か一人がダメになると全員に蔓延する悪循環はなくなった。“ボロ負け”しなくなった分、今年の阪神は優勝戦線に踏みとどまってくれるのではないだろうか。(スポーツライター・飯山満)