藤浪晋太郎が無期限での二軍降格を告げられたのは既報通り。理由は、練習時間の遅刻に対する戒めだが、球団は“遅刻の常習性”も指摘していた。矢野燿大監督も「どうするかは、晋太郎次第」と厳しかった。
「ピッチャーでは高橋遥人がちょっと心配です。キャンプを順調に過ごし、オープン戦終盤、矢野監督は『エース候補』と絶賛していました。新型コロナ禍で実戦から遠ざかり、その間の調整に失敗したようです」(在阪記者)
対照的に評価が鰻登りなのが、ドラフト6位ルーキー投手の小川一平(右投右打)だ。昨秋の阪神のドラフト指名は高校生中心。支配下の指名選手6人のうち、5人が高校生だった。小川は唯一の大学生だったが、最後の6位指名。東海大学九州キャンパスの出身で、中央では無名に近かった。
その小川がシート打撃、紅白戦で好投し、「開幕一軍も!」と急浮上してきたのだ。キャンプ、オープン戦ではメディアを含めて、ノーマークだったが、藤浪の二軍降格と高橋の調整不良で一軍入りの可能性は高いと見ていい。
5月31日の紅白戦で好投した小川について、聞いてみた。
「(紅白戦の行われた)甲子園球場のスピードガンで152キロを計測しました。182センチの長身なので、『投球に角度がある』とは聞いていましたが、対戦したバッターは確かに打ちづらそうにしていました。変化球が独特、矢野監督が本当に一軍で使ってきたら、対戦チームも最初の対決では戸惑うでしょう」(関係者)
“即戦力”ではないか。ドラフト会議前は全くと言っていいほど、名前が出ていなかった。阪神スカウト陣が地方で見つけてきた逸材とも言えるが、ライバル球団からはこんな評価も聞かれた。
「他11球団の指名リストに入っていた投手です。でも、育成枠で指名する予定でした」
詳しく聞いてみると、大学で覚醒した投手だという。しかし、スカウト陣が将来性を見極める「成績」が少なかったようである。
1年春の大会は熊本震災により、登板ナシ。2年生では大学日本代表候補の合宿にも招集されたが、3年生の時に腰を故障し、4年生最後の春季大会は部内の不祥事により、出場停止。「好投手だが、参考となるテータは少なすぎる。地方の大学リーグなので対戦バッターのレベルも…」と、他球団は支配下での指名に二の足を踏んだそうだ。
「大学では主にリリーフでした。独特なチェンジアップを投げていました。本来、チェンジアップは球速も落ちる変化球なんですが、彼の場合、通常のピッチャーが投げるようもスピードがあって(130キロ台後半)、ボールの回転数もあります」(ライバル球団スカウト)
震災、故障、不祥事。小川は「野球をやることのできる喜び」を知っている。だから、新型コロナ禍の自主練習期間も逞しく乗り切ることができるのだろう。
「性格は明るいと聞いています。選手寮では同期入団の選手、つまり、年下の高校生にもイジられているそうです」(前出・関係者)
投げることに飢えていた小川と、オトナになり切れていない藤浪。困難に立ち向かうとはどういうことなのかを考えさせられた当落劇である。(スポーツライター・飯山満)