かつて、松坂世代なる“称号”があった。松坂を筆頭に、1980年4月2日から1981年4月1日生まれの同学年選手たちが揃って活躍したからだが、その松坂世代のトップは松坂大輔ではなくなるかもしれない。
※
松坂大輔 170勝108敗2セーブ
藤川球児 60勝36敗243セーブ
※
プロ野球には、名球会なる組織がある。ピッチャーなら、日米通算200勝以上か、250セーブ以上を記録し、バッターならば、同通算2000本安打を達成しなければ、入会することができない。まさに一流のトッププレーヤーだけが集まる“メンバーズクラブ”とも言えるが、その中に松坂世代の選手は一人もいない。上述の数字からして、藤川の名球会入りは時間の問題と言っていい。
「村田修一は惜しいところで現役引退となりました。2017年、巨人から戦力外通達を受けた時点で、通算1865安打でした。あと1年、レギュラーで試合に出ていたら、2000本に到達していたはず」
「あとひと息」だったことを惜しむ声は多く聞かれた。
松坂世代のNPB現役選手はこの2人のほかは、和田毅、久保裕也の4人だけ。松坂のトミー・ジョン手術に代表されるように長期欠場を経験した選手も少なくない。おそらく、松坂世代からの名球会入り選手の誕生にここまで時間を要した理由は怪我のせいだろう。
「今季、アクシデントがなければ、巨人・坂本隼人が2000本安打を達成します(現在1884本)。坂本、斎藤佑樹、田中将大たちは『ハンカチ世代』と呼ばれ、松坂世代と同じように球界を牽引してきました。単純に比べられる話ではありませんが、8学年下の坂本が『松坂世代』と同じシーズンに名球会入りするとは思いませんでした」
松坂世代のドラフトイヤーで活躍した元スカウトマンがそう言う。
単に生涯成績だけを見ると、「もっと勝ち星を挙げていても…」と思うところはあるが、松坂世代の魅力はそれだけではない。松坂を始め、エース、4番、クローザーとチームの中核を担う選手も多かった。シーズンを棒に振るような長期欠場もあったが、見方を変えれば、チームが「復帰」を待ってくれたとも解釈できる。復帰を待ちたくなるような選手、待たなければならない存在が揃っていた世代とも言える。
「藤川が右肘にメスを入れたのは、2013年。ストレートに往年の威力が戻ってきたのは昨季後半ですが、そこに至るまでの間、藤川は先発や中継ぎも務めてきました。先発で成功したとは言えませんが、自身の役割に応じて調整法を変えるなど、ピッチングスタイルのパターンをたくさん持っています」(球界関係者)
昨季、「往年のストレートが蘇った」との評価も多く聞かれた。しかし、投手出身のプロ野球解説者や20代の頃を知る阪神OBたちは「変化球を使う割合が増えている」とも評していた。対戦バッターにストレートを速く感じさせるテクニックも習得したのだろう。
藤川がトップを切って名球会入りするのだから、この点に関しては“松坂以上”と評価しても良いのではないだろうか。(スポーツライター・飯山満)