だが、その見事なプレーぶりとは裏腹に、稀代のヒットメーカーの周囲には今季、耳を塞ぎたくなるような話題も付きまとっていた。
昨年末から今年にかけ、MLBのアストロズが2017年シーズンにサイン盗みを行っていた事実が明らかになった。組織ぐるみでの悪しき行為が発覚したことにより、アストロズ球団へ罰金などの処分が下される等、現在も揺れ続けている米野球界。その中で、一部日本のファンの間では、当時所属していた青木の関与の可能性についての声も挙がっていたことも事実だ。そして、これについては今後、答えが出ることはないかもしれないが、野球ファンにとっても決して愉快な話ではない。
だからこそ、過去から聞こえてくる雑音を振り払うには、もはやプレーを見せ続けるより手段はないだろう。
今季からチームのキャプテンに任命され、今まで以上に先頭に立ち、引っ張っていく存在となった。また、昨季まで主軸だったバレンティンが移籍したこともあり、打線の中でも青木のバッティングがより、重要度を高める場面が増えて行くはずだ。
そして、その期待通りに、ここまでのオープン戦では好調な打撃を発揮している。先月29日の巨人との初戦から出場し、いきなり本塁打を含む3安打を記録している。さらに、翌日の同じカードでもヒットを放ち、チームの勝ち越しに貢献している。6回表のランナー1・3塁で迎えた第3打席、フルカウント後に高めの真っすぐを強引にはじき返したこの打席の内容は、ややボール気味だったものの、失投をしっかりと捉えての安打であり、相変わらずの選球眼の良さと積極性が存分に表れていた。
何より、ベテランともなれば、開幕までに時間をかけて合わせてくる選手も少なくない中で、青木が見せている今年の春のここまでのコンディションは、一気にピークに作り上げてきたような仕上がりだ。
指揮官も変わり、昨年の低迷から再出発を図る東京ヤクルトを導いて行く存在として、これほど相応しいプレイヤーも見当たらない。昨シーズン終了後も、NPB通算打率歴代1位を保持、球史に名を刻む高みにも上り詰め、そしてその姿は今季もスタジアムで躍動する。
青木宣親はグラウンドに立ち、そのバッティングで結果を残し、答えを出し続けて行く。
(佐藤文孝)