「はっきり言って、投手事情は苦しいですよ。シーズンが始まって、雨天中止で日程が変わったり、故障者が出たら、先発投手の頭数が足らなくなるかもしれません」(スポーツ紙記者)
40歳をアテにしなければならないところからも苦しい台所事情は窺える。しかし、石川は先発マウンドを20試合以上こなしてきた。昨季も23試合に登板している。投球回数こそ120イニング台と少ないが、チームにおいては数少ない計算の立つ先発投手だ。
「石川、小川、高橋、原、イノーア…。3番手以降の高橋は勝ち星が計算できません。ここに昨秋のドラフト会議で指名した新人投手が加わりますが」(前出・同)
正捕手も、嶋基宏で“決定した”と見ていいだろう。投手陣を引っ張ってもらうため、経験豊富な嶋のリードに頼るしかないからだ。「最初から正捕手は嶋で決まってただろ?」というファンもいるかもしれない。しかし、嶋のヤクルト入りが決まった後も、こんな情報が流れていたのだ。「若手捕手を使ってくる」と…。
高津臣吾監督は二軍を指揮していた昨季、古賀優大なる若手捕手に着目していた。“チャンス平等”の二軍において、古賀は75試合もマスクをかぶっている。それだけでも期待の大きさが窺えるが、
「一軍キャンプは異例の捕手5人態勢でした。その5人目が古賀で、高津監督の希望で古賀の帯同が決まりました」(関係者)
とのことだ。古賀は昨秋の台湾でのアジアウインターリーグにも派遣されている。12球団から期待の若手を預かった派遣監督、コーチたちは「来季の正捕手候補、期待の捕手」と古賀を見ていた。
「一昨年5月、古賀は一軍でマスクをかぶっています。当時、勝ち星のなかったハフを勝利投手に導いたんです。捕手として、目立った特徴があるわけではないんですが」(前出・関係者)
アジアウインターリーグでも、古賀とバッテリーを組んだ他球団の若手投手からもリードの評判は上々だった。従って、「古賀をメインで使って、ベテランの嶋に補ってもらう」という布陣を予想する声もあったのだ。
脆弱な投手陣を高卒4年目の古賀に託すのは、リスクが大きすぎる。そんな結論に至ったようだが、石川がシーズンを通して投げてくれれば、「ベテラン投手が若手捕手を育てる」という試合も見られるかもしれない。
NPB史上において、40代が開幕投手を務めるのは、石川が5人目。40代で2度も開幕投手を務めた元広島の大野豊氏のようなピッチャーもいたが、勝利投手となったのは、1990年の元ロッテの村田兆治氏まで遡る。
「石川は投手陣だけではなく、チームにおいて影響力の大きいベテランです。石川で開幕戦を落とすと、チーム全体の士気に影響します」(前出・スポーツ紙記者)
ヤクルトには中村悠平捕手もいる。嶋がスタメンマスクの大半を占めるようなことになれば、年齢的にもヤバイ。中村もベテラン石川に学びたいと思っているところは多いはず。そう考えると、石川が開幕投手に指名されたことにはいろいろな意義がある。(スポーツライター・飯山満)