近年では映画監督としても新作を作り続けている松本は、作品を創りたいという意欲が強く、自身が企画・構成・出演している番組のことも「作品」として語ることが多い。そして松本のファンも、タレント松本人志のファンというよりは松本の作る作品に一喜一憂している人が多い。
松本人志の熱狂的ファンの間で現在放送中の「松本人志のコント MHK」や監督した3本の映画作品以上に熱く支持されている、人気ナンバー1の作品といえるものが1998年から1999年にかけて製作された「VISUALBUM」という松本人志が企画・構成・出演して製作されたオリジナルコントを収録したビデオシリーズである。2003年にはDVD化もされているが、テレビ番組で放送されたわけではないオリジナルのコントであること、映画作品の公開時のような大規模な宣伝がされたわけでもないこともあり「このオリジナルコント集の存在を知らない人が意外とたくさんいる」と松本自身も嘆いていたことがある。つまり、この作品はそれだけ松本にとっても、このVISUALBUMシリーズは自信作だっ たと言えるだろう。
お笑い芸人の中にもVISUALBUMシリーズの熱狂的ファンは多く、浅草キッドの水道橋博士はこの作品を見て「松本人志は世界の映画作家の最前線に入っている存在だと確信した」とまで語っている。
今改めてVISUALBUMを見返してみると、松本の映画監督デビュー作である「大日本人」を思わせるような巨人をテーマに作られたコント「巨人殺人」なども収録されており、映像作家としての松本人志の原点も垣間見える。
残念ながら、もう長い間ダウンタウンが漫才をしている姿を見ることは無くなってしまったが、そんな松本の漫才への思いをかたちにしたコント「いきなりダイヤモンド」では、松本と今田耕司による作りこんだ漫才まで見ることも出来る。
このように、VISUALBUMは松本人志の作るお笑いが、好きなファンにとっては見逃せないポイントがいくつも用意されているのだ。
現在、松本がNHKで製作しているコントや映画も、VISUALBUM同様に準備も時間をかけて丁寧に作られてはいる。
ただ、NHKのコントや映画に対しての感想は熱狂的な松本ファンの間でも大きく賛否が分かれている。ファンの否定的な意見を見てみると、松本人志の発想や企画がつまらなくなったという声よりも「長い間コントから離れていた松本から、キャラクターを演じる力、『キャラに成りきる芝居』がかつてのようには感じられなくなった」というファンの声の方が多い。
松本の考える企画や発想は今でも多くのファンから支持されている。これからもコントや映画などで、松本人志以外のキャラを演じる機会が増えていけば、VISUALBUMシリーズのように熱狂的ファンから最高傑作と呼ばれるような、コントや映画が現れる可能性は十分にあると言えるだろう。彼の今後に期待していきたい。
(安坂由美彦)