病院を舞台とした事件を描く『チーム・バチスタ』シリーズであるが、ドラマ3作目の『アリアドネの弾丸』は、これまで以上に刑事物としての要素が強まった。しかも、警察庁の陰謀が見え隠れするスケールの大きな話になっている。刑事物とした場合に問題となる点は、主人公・田口の存在意義である。原作では田口が単独主人公であり、白鳥圭輔は基本的に田口が行き詰った時のお助けマン的な存在であった。
これに対してドラマでは田口と白鳥(仲村トオル)がダブル主役の位置付けである。人間関係も原作は田口が起点になっていたものが、ドラマでは白鳥起点に改変されている。放射線科医の島津吾郎は原作では田口の同期であったが、ドラマでは白鳥がスイス・レマン大学から招聘した。前作『チーム・バチスタ2 ジェネラル・ルージュの凱旋』でも田口の同期であった速水晃一が、白鳥の同期に設定変更されている。
このように田口の存在感が低下するドラマにおいて、真犯人を追いつめるという刑事物の要素を前面に出すならば、ますます白鳥の独壇場になってしまう。しかし、それでも今回のドラマは田口の存在感を出すことに成功した。
今回の主題はシステムエンジニア・友野優一(矢柴俊博)の死因究明である。警察は早々に事件性なしと判断し、Ai(死亡時画像診断Autopsy Imaging)でも不審点は発見されなかった。しかし、納得できない田口と白鳥は調査を続ける。友野の趣味のクラシック音楽の会話で田口は友野と心を通じ合っていた。このエピソードがあるために田口が友野の死因究明に執念を燃やすことが自然に映る。
さらに法医学教室助手・須賀秀介(市川知宏)からの貴重な情報引き出しも田口の善良さがなければ不可能であった。アクティブ・フェーズによって対立を生む出す白鳥では無理である。田口は相手を取り込むパッシブ・フェーズの名手として不可欠な役回りを見事に果たしている。
伊藤淳史と言えば『電車男』の主人公や『西遊記』の猪八戒など情けなさのある役どころのイメージが強い。『アリアドネの弾丸』でも白鳥に振り回される点が笑いどころになっているが、主役として他の登場人物にはない能力を発揮している。情けなさと凄さの同居した伊藤の演技に期待したい。
(林田力)