「言動も立派になった。今の状況ならいいコーチになれる」
慰留を明言したのは、ほかならぬ松田元オーナーだった。その言葉通りなら、大竹は『幹部候補』として、将来も約束されたわけだ。
かつて広島はFA権を行使しようとする選手に対しては「見送る傾向」も強かった。
「慰留交渉で年俸がつり上がるのを嫌ったからですが、野球の成績とは別に、経営陣による『独自の査定』も影響していたように思います。お気に入りの選手(ベテラン)は大切にするが、そこから漏れた選手はたとえ主力であっても、待遇が冷たいというか」(球界関係者)
川口和久、江藤智、新井貴浩などの看板選手がFA権を行使した背景には、そんな線引きもあったらしい。
しかし、昨今はそうではない。昨季もFA権を取得した栗原、廣瀬を引き止めており、旧広島市民球場から3万3000人収容の『MAZDA Zoom−Zoomスタジアム広島』に本拠地を移し、「観戦者収入が上がり、球団経営も好転している」という。FA取得選手のプライドを満たすのに十分な“資金”を得たようだ。
「野村監督の次が見つからないからですよ」
プロ野球解説者の1人がそう言う。どういう意味かというと−−。
「野村監督は地元財界にもファンが多い。その野村監督を招聘することで財界からの支援も得たわけですが、過去3年、クライマックスシリーズにも進出できていません。結果を出さないと、野村監督に指揮を続けさせる意味もなくなってしまう。単にチームを強くするだけの指揮官ならすぐに見つかるでしょうが、地元財界が応援してくれるような後任監督はなかなか見つかりませんから…」
栗原、廣瀬はクリーンアップ候補だが、バットマンとしての数値は物足りない感もある。大竹もドラフト1位選手ではあるが、先発ローテーションの4番手以降だ。戦力の喪失は優勝圏内から遠ざかるだけではなく、チーム経営にも影響しかねない。
「生え抜きの選手を大切にする…。そうしなければ、地元ファンからも見限られてしまいます」(前出・関係者)
オーナー自らが大竹の慰留を明言したのは、チーム経営のためでもあったようだ。
2年目の野村祐輔が登録抹消で先発要員が不足している。大竹は十分に存在価値を見せつけたようである。