二人が、剣をぶつけ合った。そのまま、押し合っている。いったん、離れた。
隊長が剣を下げた。マントが、剣に遅れて揺れた。
「お前、傷を負っているのか」
そうだ、吉原君は、脇腹に野蛮な男が投げた短刀が刺さったはずだ。吉原君が急に、苦しそうに脇腹を押さえた。このままじゃ、吉原君が不利だ。
隊長が、マントをひるがえした。いきなり、自分の剣を自分の脇腹に突き刺した。なんで。
脇腹に突き刺した剣にたいまつの炎が映っている。隊長が、力を込めて剣を抜いた。傷口から血が流れ落ちている。
隊長が歯を食いしばった。
「これで、おあいこだ」
隊長は、このままじゃ吉原君が不利なんで、自分の脇腹を刺したんだ。正々堂々と戦おうとしているのかも。隊長は私を奪い合うために、自分も傷を負ったんだ。正々堂々と戦って、私を奪うために。そんなに私が欲しいんだ。
私はどうしたらよいのだろう。男の人たちが、私のために戦っている。負けたほうは命を落とすんだ。
吉原君のことは好き。でも、隊長もすてき。
ああ、私はどうしたらよいのだろう。二人の男の人が戦っている。勝った人が私の所に来るんだ。レースのカーテンをそっと開けて、私が寝ているベッドに入ってくるんだ。
隊長と吉原君が再び剣を交えた。私は、ベッドに入った。
私は今、服を着ていない。掛け布団で体を隠した。それから、目をつぶった。剣がぶつかり合う音が聞こえる。風があるみたい。何かが私の体に覆い被さってくる。羽音だ。怪鳥が天井から降りてきたんだ。
いつのまにか、私は、おばあちゃんの部屋に戻っていた。障子が開いている。夜風が入ってくる。屋根の上から鬼瓦が横目で私を見つめていた。
私は再び目を閉じた。
(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)