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人物クローズアップ 石黒賢

 6月6日に渋谷シアター・イメージフォーラムなどで公開される映画「ジャイブ―海風に吹かれて」。北海道をヨットで無寄港1周するという無謀な冒険に出た主人公、泊哲郎役に文字通り“体当たり”で挑んだ俳優の石黒賢(43)に、作品の見どころや撮影の裏話などについて話を聞いた。

 舞台は、かつてニシン漁で栄えた歴史ある港町、北海道の江差。東京のIT企業経営者、泊哲郎が彼の役だ。共同経営者の前島(山口馬木也)に裏切られ、亡き祖父(大滝秀治)の法要を機に故郷へ帰ることにした。高校時代の同級生、由紀(清水美沙)と再会した哲郎は「北海道をヨットで無寄港一周する」ことを宣言。由紀は東京から様子を探りにきた会社の部下・麻衣子(上原多香子)とともに、哲郎を追いかけて奇妙な女二人旅へ…という物語だ。
 北海道の印象を聞くと「ロケの半分はヨットの上だったので」と笑う。
 「でも、行ってみて初めて気が付きました。北海道の夏で一番気持ちいい時期って本当に短いんですよ、1週間あるかどうか。その時期にヨットに乗れて良かったと思います。それに夏とはいえ北の海は天候が不安定ですから、撮影スケジュールもクルクル変わりました。凪(なぎ)で風がピタッと止んだかと思えば急に雨が降り始めたり。短いスパンでいろんな出来事が起こるんです」
 撮影は江差を中心に行われ、7〜8月に4週間ほど滞在したという。
 「江差の町は独特でした。正直言って町の歴史に不勉強でしたし。江戸時代は大都会で、町の方とお話すると皆さんからプライドや矜持(きょうじ)が感じられます」
 劇中に江差の盛大な祭礼のシーンが登場する。実際に祭りが行われている中にカメラを持ち込み撮影した。
 「お祭りを実際に味わえて楽しかったです。江戸時代は北前船のおかげで京都に近い町だったそうです。江戸よりも公家文化なんですね。だから高貴だし、気位の高い町だと初めて気付かされました」

 哲郎の旅には、実はある目的があった。それは祖父の位はいを国後島に埋葬すること。
 「この場面は映画の中核になるシーン。自分としては、国後近辺に到着する前に、洋上で位はいに語りかけるシーンに注目して欲しいですね。じいちゃんへの思いや、自分の葛藤や苦悩を一人になって吐露する。このシーンがあったからこそ、次の国後の場面が生きてくると思ってます」
 俳優としての雰囲気からヨットに乗り慣れているようなイメージを受けるが、実際に操縦するのは実は初めてだったそう。
 「撮影前に2度ほど練習した程度かな? それで本番に臨みました。ヨットの操縦は基本的に楽しかったなぁ。セールで風を受ける感触が何とも言えないですね」
 撮影に使用された「カモメ二世号」は24フィートと、一人乗りにしては意外に大きな船だ。
 「船内にはキャビンもトイレもあるし、本当は一人じゃ大き過ぎるんです。でも、撮影スタッフも同乗していたので撮影中は狭かったですね。スタッフはキャビンに閉じ込められ、フタされて揺すられている状態なので、皆さん青い顔してました」
 撮影中の操縦そのものは特別な技術を要するようなものではなかった。
 「サトウトシキ監督が描く“絵”のイメージに合わせて、どの向きでカメラのフレームに入り、そして出ていくかだけ。でも結局それは風任せ(笑)。やはり天候次第なんです」
 また、物語のカギを握るのが相手役の由紀。清水美沙の演技にも感心したと語る。
 「夕陽のいい時間を狙ってキスシーンを撮影したのですが、日が早く沈むので取り直しができない。でも彼女はワンテイクOK。上手な女優さんですから不安はありませんでしたが、それにしても見事でした」
 さて、20代のころは頼りなげで二枚目半的な好青年の役が多かったが、今や40代半ばとなった。
 「20代は数多くのジレンマがありました。30代になって、ようやく自分のやりたい役をいただくことが多くなってきて。でも、昔から“男は40代”って思っていましたし。ようやく自分も40代になったことですから“男ってこういう感じだよな”って面を出せるようになりたいですね」
 この春からはテレビの情報番組で司会も務めている。
 「生放送は緊張感がありますが、実は芝居と根っこは同じなんじゃないかと。芝居は台本を読んで、実際にはないことを自分の中からギュッと絞り出して表現する。生放送は瞬間瞬間で思うことを絞り出す。それぞれ面白みがありますね」
 映画には小泉純一郎流“新自由主義”の否定と自然への回帰というテーマも垣間見える。しかし、石黒自身には“こう見て欲しい”といった押し付けがましさはない。
 「自分の人生ですから、スイッチを入れるのも切るのも自分次第。人生ってリセットできるものではありません、過去があっての今だと。人生にムダはないと思います」

<プロフィール>
 いしぐろ けん 1966年1月31日、東京都生まれ。成城大学卒。83年ドラマ「青が散る」(TBS)でデビュー。今年9月開始のNHK連続テレビ小説「ウェルかめ」に出演決定。映画デビューは86年「めぞん一刻」。現在、TBSのワイドショー「ひるおび!」の水曜日でレギュラー司会を担当。

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