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連載ラノベ 夢ごこち(29)

 山の中腹にあるこの家は、もう闇に包まれていた。家の周りからは草木の音しか聞こえない。ふもとの方も、ほとんど何も見えない。たまに、ぼんやりした明かりが灯っている。みんな、身を潜めて、息を殺している。何かを待っている。

 嵐が来るんだ。

 でも、この闇のどこかに、社がある。ろうそくを灯しているけど、ここからは見えない。周りがみんな気配を消しているのに、社の中では男の人がおまじないをしている。袈裟を揺らしながら、怪鳥を呼び寄せているんだ。

 今夜は、この家で、健太君と二人きりで留守番をする。台風は明日にも、ここに来るかもしれない。今夜だけでも、持ちこたえてくれるといいな。

 あと、怪鳥が現れるのも。せめて、今夜だけは健太君が無事でいてほしい。嵐が来ると、悪いことをした男の子が、裸にされて、橋の下に吊されてしまう。男の子は縛られて、杭の上に怪鳥が舞い降りる。

 月明かりも隠れてしまっていた。鳥たちの姿が見えない。何か起こりそう。掛け軸の部屋に入って、障子を閉めた。

 さてと、蚊帳を吊らなくちゃ。けど、家ではもう蚊帳は使っていなかった。うまく吊れるか心配だ。蚊帳の四隅を広げた。

 障子が開いたと思ったら、寝間着に着替えた健太君が部屋の中へ走り込んできた。そのまま、蚊帳の下に頭から潜り込んだ。高校野球のヘッドスライディングみたい。お尻をもぞもぞさせながら、向こう側へ這い出た。くるっと向き直った。健太君が私を見ている。なんだか、背伸びをして辺りを見渡す小動物みたい。

 健太君が、蚊帳の端をつまみながら話しかけてきた。
 「お姉ちゃん、蚊帳、吊るの」

 「そうよ、健太君、手伝ってくれる」
 聞くと、健太君は首をかしげてはにかんだ。
 「いいよ」
 ほんと、かわいい。

 健太君が手伝ってくれて、私もやり始めたらすぐに要領を思い出した。蚊帳はほどなくして、できあがった。けど、健太君の寝間着がめくれて、お腹が出ている。帯は結ばれたまま。きっと、固結びにしているんだ。

(つづく/文・竹内みちまろ/イラスト・ezu.&夜野青)

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