その功績の一つに、南海のプレイングマネージャー時代に江夏豊を抑えにしたことが挙げられる。先発にこだわる江夏に言った「二人で革命を起こそう」という言葉は、その後の江夏の活躍、他球団に与えた影響を見れば、球界への貢献度は大きいといっていいだろう。
そのノムさんと江夏だが、南海で革命を起こす師弟となる前に、球史に残るドラマでニアミスがあった。
1971年のオールスター。この年、江夏は心臓発作に苦しみ、ここまでの成績も負け越しでぱっとしないものだった。それでもファン投票1位で選ばれ、その期待に応えようと燃えていた。
西宮球場での第1戦、あの9連続奪三振だ。
すごいのは前年と、この年の第3戦とあわせて、記録を15人連続にまで伸ばしていること。そして、16人目の打者がノムさんだった。
「どいつもこいつもだらしない。プロの意地にかけてワシが止めてやるで!」
ノムさんは鬼の形相で燃えていた!
と、したらドラマは盛り上がるが、実は三振しないようにバレバレでバットを短く持っていたのだ。そして結果はセカンドゴロ。
実は全パ・農人監督(ロッテ)は第1戦の九人目、投手の代打に右打ちのノムさんを出そうとしたらしい。しかし「嫌な顔をしていたんで」やめたそうだ。
江夏も、バットを短く持ったノムさんの真剣な表情に思わず苦笑したそうだ。
「せこいおっさんやな」。これがその時の感想だったとか。
記録を止めたのには変わりはないが、現実はこんなものだった。
その二人が数年後に監督と選手として出会い、球界に大きな足跡を残すことになるのだから人生はどうなるかわからない。
今年もどこかのチームで、こんな出会いがあったらと想像すると楽しみになってくる。
(横浜 六太 山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou