「誰?ビー・プレストリーって?決め技がジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスね…女子には藤本つかさ 男子には日高郁人 勝手に使わないで貰いたい」
豊田さんは現役時代フィニッシュホールドとしてジャパニーズ・オーシャン・サイクロン・スープレックスを使っていた。21日に行われた女子プロレス団体スターダム大阪・世界館大会で、外国人選手のビー・プレストリーが豊田さんがの技を“無断使用”したことに苦言を呈したのだ。
「技を譲る」という文化は豊田さんが所属していた全日本女子プロレスから派生したもの。豊田さんは一昨年の引退ロードにおいて、技の継承者として藤本らの名前を挙げていた。現在はタレントとして活躍している北斗晶も引退する際、現役時代の必殺技・ノーザンライトボムを長与千種に継承したが、長与は「北斗から受け継いだ大切な必殺技を使うほどの相手がいない。使うのなら北斗に使いたかった。大切なものはなかなか出せない」と現在まで使用していない。
この論争に正解はないと思っているが、男子のプロレスしか見ないファンは違和感を覚えたのではないだろうか。実は男子の世界でも本家に「許可」をもらっている選手が多いのだが、あまり明らかにされていない。
しかし、リングには上がらないものの、テレビの実況席からこれを貫いた人物がいる。1980年代、テレビ朝日系列『ワールドプロレスリング』で新日本プロレスの実況を務めた古舘伊知郎アナウンサーだ。数多くの名言を残しているが、アントニオ猪木氏の必殺技、延髄斬りのフレーズは猪木が使った時にしか発していない。これは「延髄斬りは猪木さんにしかできない技」という古舘アナのこだわりで、藤波辰巳(当時)や外国人選手が同じ形で蹴りを放っても「ジャンピングハイキック」と最後まで言い続け、「延髄斬り」イコール猪木氏のイメージをファンに植えつけたのだ。
藤波は師匠である猪木氏との対戦前「猪木さんの技は全部使える」とコメントしていたが、古舘アナだけは「延髄斬りは使えない」と思い、実況をしていたのは間違いないだろう。今話題となっている論争について古舘アナが見たらどう感じるのだろうか?
かつて新日本の選手が使っている技を、全日本プロレスの選手が使った際に日本テレビのアナウンサーが焦ったという話もあり、われわれ報道陣もフィニッシュホールドを本部席に確認しに行くと「え?あの技じゃないの?」なんてことはよくあること。アナウンサーは瞬時に考えなければならないので大変な作業だ。アメリカWWEでは開発した選手を技名にして実況している。このスタイルが一番スマートではないかと、伝える側の一人としては感じている。
文 / どら増田
写真 / ©︎H.J.T.Production